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ヒトコワ

yukiさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

異世界転生ドラ⚫︎もん
長編 2025/07/17 13:35 8,697view
3

の⚫︎太君の射撃は、設定通り優秀だった。
ただ一発の狙い撃たれた銃弾が、ジャ⚫︎アンの眉間を貫き、脳漿が空き地に舞った。
ステージに、黄色と赤の粘つく液体が花火のように降り注ぐ。
その光景を見た待機中の観客は、リサイタルが中止になった事に喝采を飛ばす。
地獄のジャイ⚫︎ンリサイタルは、その開演の前に、最高の盛り上がりと感動のクライマックスを観客に与えたのだった。
…ちなみに、ヘッドショットで即死したジャイ⚫︎ンだったが、その後タイム風呂敷で元通りである。

翌日。
の⚫︎太君とドラ⚫︎もんは、ジャイ⚫︎ンに呼び出されて空き地に向かう。
「どうしたんだろうね、ジャ⚫︎アン。まだ懲りてないのかな? 二度も殺したのにね。」
「うん。僕の秘密道具を使えば、勝ち目なんて100%無いのにね。22世紀から来た僕に、20世紀の原始人の子供が抗うことなんて不可能なのに…。」
しかし。の⚫︎太君とドラ⚫︎もんが空き地に辿りついた時。
そこには、驚くべき光景があった。
お馴染みの空き地には、ジャイ⚫︎ンともに、もう一体の影があった。
の⚫︎太君の目を通して見たその物体に、俺は驚く!
赤く巨大な球体型の頭部。
不釣り合いな短い体躯。
そのシルエットには、見覚えがあった。
だが、何かが決定的に違った。
浮かべる邪悪な微笑み。
釣りあがった三白眼。
天を衝く三角毛の両の耳。
なにより、全身を染める赤い極彩色。
そこにいたのは、俺の知らない、もう一体のドラ⚫︎もん…。
【紅いドラ⚫︎もん】だった。

「ぐっふっふ。こいつの名は『ノラエもん』だ。」
くぐもった笑い声を挙げるジャ⚫︎アン。
「「ノ、ノラエもん〜!!」」
ド⚫︎えもんとの⚫︎太君は、ジャイ⚫︎ンの隣にいる真紅の猫型ロボットの登場に、声を合わせながら飛び上がって驚く。
「このロボットはな、22世紀の秘密道具による俺の危機を聞き付けた未来にいる俺の孫が、俺の護衛の為に未来から送り込んできたロボットなのだ!」
「「な、なんだって〜!!」」
ジャイ⚫︎ンの説明に、申し合わせたかのように、驚きの声を挙げながら跳ねる二人。
この二人、息ピッタリである。
テレビで見た事のないキャラクター。『ノラエもん』。
もし仮に、この赤いドラ⚫︎もんである『ノラエもん』が、本来のドラ⚫︎もんと同等か、それ以上の性能を持っているとしたら…。
(…の⚪︎太君の優位性は崩れる!)
「あれは…まずい…」とドラ⚫︎もん
ノラエもんの登場に、ドラ⚫︎もんはかつて見た事のない程の慄きを見せる。
「…あの赤い狸ロボットは敵だ! 僕らの敵だ! の⚫︎太君! ベレッタで撃ち殺せ!」
「うん!」
そう言ってドラ⚫︎もんは、まるで抜刀術のような速度でポケットからベレッタを取り出すと、の⚫︎太君の手に渡す。
(…今、自分で狸型って言ったような…。まぁいいか)
ベレッタを受け取ったの⚫︎太君は、ノラエもんに銃口を向け狙いを定める。
しかし、の⚫︎太君とドラ⚫︎もんのその連携を見て、ノラエもんも迅速に反応する。
「そうはいくものか! ジャイ⚫︎ン、これを使うんだ! 【絶対当たる銃!】」
ノラエもんも負けじとポケットを探り、拳銃型の秘密道具を取り出しジャ⚫︎アンに渡す。
【絶対当たる銃】…。
効果は聞いて名の如し。説明不要だろう。
対峙する二人の子供。の⚫︎太君とジャ⚫︎アン。両者は、ほぼ同時に引き金を弾く。
二つの銃声が空き地に轟いた。
そして。
暫しの時の後。
先に地面に伏したのは…。
…の⚫︎太君だった。
の⚫︎太君の持つ天才的な射撃能力も、絶対命中を約束された未来の道具には叶わなかったのだ。
銃弾で胸を貫かれたの⚫︎太君は、地面に平伏しながら、もがき苦しむ。
肺を撃たれたのだ。

そして。の⚫︎太君の受けているその痛みを、俺も同時に体感する。
胸が焼けるように熱い!!
息が出来ない!
空気を求めて、俺の口は酸素の不足した金魚のように口をパクパク開けながら地面の上でのたうち回る。
だが、割れた風船のようになった肺胞が酸素を取り込むその機能を果たせるはずもなく、俺の足掻きは徒労に終わる。
痛みと出血。そして酸素不足の脳味噌。徐々に四肢を支配する冷たさの中で、俺の頭は朦朧とし、意識が混濁しいく。
霞む視界の中で、もがき苦しむ俺をニヤニヤと嫌らしい笑い顔を浮かべながら見つめる、ジャイ⚫︎ンとノラエもんの姿。
その顔は、報復の喜びに満ちていた。
視界が闇に閉ざされる。
痛みも苦しみも、熱さも冷たさも、少しづつ感じなくなってきている。
早く! 早く! この苦しみが終わるなら、なんでもいい!
俺は、ただ一刻も早く苦しみの時間が終わりを告げるのを待ち望んだ…。
と、その時。
俺の視界が一瞬、暗幕をかけられたかのように闇に包まれる。
直後。陽の光が目に差し込む。
同時に。身を苛む痛みが、苦しみが、そして熱さが冷たさが、綺麗にさっぱりに消え去った。
「タイム風呂敷で元通りさ!」
紫の布切れを手にしたドラ⚫︎もんが、俺の近くに立っている。
「大丈夫だよ、の⚫︎太君。ノラエもんがどんな道具で君を殺害しても、何度でも直ぐに僕が元通りに治すから!」
「あ、ありがとう! ドラ⚫︎もん!」
「よーし。今度はこちらの番だ! 」
「で、でも、あんな絶対当たるピストルに勝てるわけないよ〜。」
「大丈夫だよ。あんな豆鉄砲、大したことはない!」
「で、でも…、」
俺の脳裏に、先程の痛みの記憶が蘇る。
(あんな痛みはもう嫌だ…。勘弁してくれ…)
「の⚫︎太君! これを使うんだ!」
俺の狼狽など全く意に介する事なく、ドラ⚫︎もんは新たな道具をの⚫︎太君に手渡す…。というか、設置する。
「【コルト・ブローニングM1895重機関銃ぅ〜!】。
これは、30口径の銃口から毎分550発の弾丸を発射できる優れものだ!。いいものだよ、これは。この機関銃の弾幕にかかれば、相手の小口径の自動拳銃なんて、イチコロだよ!」
(イチコロだよ! じゃねえよ! )
うっとりと、黒光りする重厚な機関銃を眺めながら、ドラ⚫︎もんは今取り出した道具の解説をする。
もう秘密道具でないことすら躊躇いがないようだった。
「よし、殺(や)るぞ~。」
そう言って、の⚫︎太君は重機関銃が持つその破壊性能とは裏腹に小さく簡単に弾けるトリガーに触れ、人体など簡単に肉塊にできる金属の弾幕の引き金を引く。
耳を劈くような銃撃音。十数秒の斉射。
その後に残ったものは、原型をとどめない程の破壊された、大柄な小学四年生の亡骸だった。
俺の手には、金属の弾丸をこれでもかと打ち出した重機関銃の斉射の振動による衝撃が残っている。
…だが、ノラエもんが取り出したタイム風呂敷で、ジャイ⚫︎ンは元通りである。
「よくもやってくれたな〜。よーしジャイ⚫︎ン、これを使うんだ! 【空気バズーカー!】」
直径30cm程の黒い鉄の円柱を腕にはめるジャ⚫︎アン。
その200口径はありそうな銃口から吐き出される、空気に塊の破壊力は、2mの鉄の塊すら吹き飛ばすほどの破壊力がある(wikiより)。
視感できない躱すことすら許さぬその破壊の砲弾が、の⚫︎太君は貫く!
いや。それは貫くなんて生易しいものではない。
その衝撃は、の⚫︎太君の腹部を抉り、四肢をも千切り飛ばす!
その痛みは、先程の胸を貫く弾丸が与えたものとは比べもにならない!
辛うじて意識を保っていたの⚫︎太君であったが、自身の千切れた四肢が血みどろの地面にボロ雑巾のように落ちている光景を目の辺りにし、一瞬で目の前が暗転した。
しかし、「タイム風呂敷ぃ〜」で元通りである。
だが…。体は元通りになったとしても、二度も味わった死の苦痛は、俺の脳裏から消えることはない。
「くそ〜、ノラエもんめ、やってくれたな! の⚫︎太君、負けちゃダメだ! これを使え! 【熱線銃ぅ〜!】」
ライフル型の銃をの⚫︎太君に手渡す。
「この道具は、見た目はスナイパーライフルだけど、最大火力で発射すれば、例え相手が軍隊でも負けない! その威力は建築面積100㎡・5階建ての鉄筋ビルを蒸発させることだってできる。爆薬6200t分の破壊力だ(wikiより)!。以前、鼠を殺すために使おうと思ったんだけど、ママに止められてね。」
(物騒な道具だが、使い方が嫌に生々しい…)
だが、小学生一人殺すのに、爆薬6200t分の破壊力って…。
「さあ、タケコプターで上空から狙撃しろ!」
宙を舞い、爆発予想範囲から離れたの⚫︎太君は、得意の射撃能力を再び活用し、上空からジャイ⚫︎ンを狙い撃つ!

いや。乱れ打つ!
一発。二発!。三発!!。
その度に上がる爆炎と破壊音。
の⚫︎太君が地面に降り立った時にはすでに、ジャイ⚫︎ンの姿は無かった。
連続爆撃の乱れ打ちにより、その姿は跡形もなく消し飛んでいた。
いや。その被害はジャイ⚫︎ンだけではない。
空き地を爆心地に、半径100m程の地面は抉り取られ、周囲の民家も、その住人も、跡形も無く吹き飛んでいた。
唯一見つけられたジャ⚫︎アンの痕跡は、ジャイ⚫︎ンが普段から着ていた黄色のトレーナーの切れ端だけである。
その切れ端に、ノラエもんはタイム風呂敷をハラリとかける。
その数秒後。
街も人も。空き地も。
そして、ジャイ⚫︎ンも。
何事もなかったかのように、元通りになっていた。
飽きるほど見た光景であった。
三度(みたび)、ノラエもんはポケットを探る。
今度は何の殺戮兵器を出すつもりなのか?
ノラエもんの様子を見て、俺の隣にいるドラ⚫︎もんもポケットをいじり始める。
(…終わらない。切りが無い)
その終わりのないやりとりに、俺はうんざりしていた。
(…夢なら早く覚めてくれ! もう死ぬにはたくさんだ! )
俺は夢の終わりを切に願う。
ド⚫︎えもんが、ポケットの開口部分の寸法を無視して電話ボックスサイズの秘密道具を取り出した。
「【もしもボックスぅ〜。】これはね、世界を君が望む形に作り変えることが出来る秘密道具なんだ!」
(…知ってるよ)
『秘密道具キター』などと言うテンションはもう無い。
「この道具を使って、君はジャイ⚫︎ンをこの世から消してしまうんだ!」
…なるほど、それは良い手だ…。
「さぁ、ジャイ⚫︎ンに仕返しを…いや、報復をするんだ!」
(…もう好きにしてくれ。この仕返しのやり合いが終わるなら、なんでもいい…)
「うん、解ったよ、ドラ⚫︎もん!」
の⚫︎太君は、意気揚々と電話ボックスの中に入り、受話器を手に取る。
そして、受話器に向かっての⚫︎太君は…(俺は)…その願いを口にする。
「ジャイ⚫︎ンをこの世から消して…」
その時。の⚫︎太君の…いや、俺の言葉が止まる。
俺の中に、躊躇いが生まれた。
本当に、これでいいのか?
殴って、殴られて、
撃って撃たれて、撃ち殺されて、
死んで殺され、生き返させられて、
やったぶんだけ、仕返しされて、
もし、ここでジャイ⚫︎ンを消したとしても、きっと再び、蘇る。
あの赤いドラ⚫︎もんには、それができる。
そして、ジャイ⚫︎ンはのび太君に、仕返しを…報復を行う。
…『やったら、やり返される』
この報復の連鎖は、何時迄まで、何処まで、続くのだろうか?
その時である!
ドラえ⚫︎んが叫んだ!
「まずいよ、の⚫︎太君! あいつら、【独裁スイッチ】を使うつもりだ!」
その声に、俺はジャイ⚫︎ン達に目を向ける。
ジャイ⚫︎ンの手には掌サイズの赤いボタンが乗っていた。
…あれは確か、選んだ相手を強制的にこの世界から消し去る道具…。
ジャイ⚫︎ンの指がスイッチを押す。
ジャイ⚫︎ンとノラエもんが、醜悪な笑顔を俺に向ける。
俺は声も出せずに、その光景を見ているだけ…。
その瞬間…。
…。
俺は、世界から、消えた。

5/7
コメント(3)
  • カオスで草wwww

    2025/07/24/14:46
  • 妙にリアルなのが逆に怖い

    2025/07/27/13:29
  • いい話やんwww

    2025/09/17/14:31

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