最初は家族に馴染めず、敬語で話したり、パンツや下着を洗われるのが
嫌で自分で洗濯などしていましたが、不思議な事に、
本物の家族なんだと思えるようになり、前の人生は前世か夢だと
思うようになりました。
そう思えてくると、前の人生での記憶が少しずつ失われていきました。
唯一鮮明に覚えていた両親の顔や兄の顔や友人の顔や田舎の街並みも
思い出すのに時間がかかるようになりました。
しかし、あの最後の一夜、宗教施設での記憶だけは
ハッキリ覚えていました。
特にあの満面の笑みの老人の顔は忘れられませんでした。
新しい生活にも慣れ、カウンセリングの回数も減り、
半年後には高校にも復帰しました。二十歳で高校3年生からやり直したのですが、
友人もでき、楽しさを感じていました。テレビ番組も観た事がない
番組ばかりでとても新鮮でした。
神奈川県の都市でしたので都会の生活もすごく楽しかったのを覚えています。
しかし、高校復帰から4ヶ月ほど経った後に意外な形で、
あの世界とこの世界とをつなぐ共通点が現れました。ちょうど夏休みに、
私は宿題の課題のため、本屋で本を探していました。
すると並べてある本の中で「○○○○」という文字が目に入りました。
宗教関連本でした。「○○○○」というのは、紛れもなく、
私が最後の夜に侵入した新興宗教の名前でした。
私は驚愕しました。そして本を手にとり、必死に読みました。
「○○○○」はこの世界では、かなり巨大な宗教団体というのが分かりました。
私のいた世界では名前も聞いた事がない無名の新興宗教団体だったのに、
こちらでは世界的な宗教団体だったのです。それから私はその宗教の関連本を
何冊も買い読みあさりましたが、それは意味がない行為でした。
読んだからといって何も変わりません。戻れるわけでもなければ、
誰かに私の過去を証明できるような事実でもありません。
周りに話したところで「それは意識がなかった時に○○○○が夢に出てきただけだ」
と言われるだろうと思ったからです。

























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