医師や周りの話だと、私は学校帰りに自転車のそばで倒れているところを
通行人に発見され、そのまま病室に担ぎ込まれたそうです。
私に入ってくるこの世界の情報はどれも聞いた事がないものばかりでした。
例えば、「ここは神奈川県だよ」と言われた時は、
私は神奈川県など知らないし、そんな県はなかったはずでした。
通貨単位も円など聞いた事もない。東京など知らない。
日本など知らない…という感じです。
そのつど医師からは「じゃあ、なんだったの?」と聞かれるのですが、
どうしても思い出せないのです。Aの名前も思い出せず、
「同級生の友達」と何度も説明しましたが周りからは
「そんな子はいないよ」と言われました。
あの施設に入り、あのフラフープに入った話を医師に何度も必死に
説明しましたが、「それは眠っていた時の夢なんだよ」という
感じで流され続けました。
しかし恐ろしい事に、私自身「自分は記憶喪失なんだ。
前の人生や世界は全部寝ていた時の夢だったんだ」と
真剣に思い始めていたのです。
「記憶喪失な上に、別人格・別世界の記憶が上書きされている」と
信じはじめていたのです。
どちらにせよ私には別人としての人生を生きていく事しか
選択肢はありませんでした。退院後に父や母や妹に連れられ自宅に戻りました。
「思い出せない?」と両親から聞かれましたが、
それは初めて見る家に初めて見る街並みでした。
私はカウンセリングに通いながら、必死にこの新しい人生に順応しようと
思いました。
私に入ってくる単語や情報には違和感のあるものとないものに分かれました。
都道府県名や国名はどれも初めて聞いたものばかりですし、
昔の歴史や歴史上の人物も初耳でしたが、大部分の日常単語については、
違和感はありませんでした。テレビや新聞、椅子やリモコンなどの
日常会話はまったく違和感ありません。
























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