「目を合わせるのが怖い人形がうちにあったんです」
そう話してくれたのは大輔さん。
大輔さんが小学生の頃の話だという。
約40年前。東方地方の某県に、姉と祖母と住んでいた。古き良き日本家屋の家ではガスでご飯を炊いており、保温するためにタッパーにご飯をつめ、押し入れにしまってある布団と布団の隙間に挟んでいた。
そんな昔ならではの生活をしている中、日本家屋にはあまり似つかわしくない“ミルク飲み人形”があった。
ミルク飲み人形とは(ぽぽちゃんを想像していただくとわかりやすいが)赤ちゃんサイズの人形で、実際にミルクを飲ますことができオムツを変えられる人形のこと。
金髪で目が青く、洋風な見た目。可愛らしい人形ではあるのだが、大輔さんは人形と目があわないように背を向けたり、物陰に隠していたりしていた。
「お姉ちゃんのお人形だから、大輔がイタズラをしないように」
そのうちに祖母が、手の届かないタンスの上に行儀よく座らせてくれたので目が合う事はなくなり、安心しかけていた。
なかなか寝付けずにいたとある日の夜。
左側の窓からは月が見えており、月明かりが部屋の中を薄暗く照らしている。
ふと、あることに気づく。
布団で寝ていた大輔さんの目線、右側に何かが動いたような気がしたのだ。
寝ている部屋と隣の部屋の仕切りになっているガラス戸の下。何か小さなシルエットが透けて見えている。
じっとよく見ていると「ガッ、ガガッ、ガッ‥」と立て付けの悪い扉を開くときのように、ガラス戸がゆっくり開いた。
開き切った戸の向こう、あの、ミルク飲み人形が立っていたのだ。
毛布を頭まで被り震えながら、早くこの時間が過ぎていってほしいと願った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんさい」
ガラス戸の方からは「スゥーッ、スゥーッ、スゥーッ」とすり足で床を歩く音が聞こえてる。
その音はだんだん近づいて来る。
毛布を被っている頭の上。
姿の見えない足音は、止まった。
そのまま寝てしまったのか、怖さに耐え続けながら起きていたのか。気がつくと外からは鳥の声、台所からは朝食の準備をしている音が聞こえてきた。
毛布を勢いよく払いのけ、朝食の準備をしている祖母の腰元に
「こわいこわいこわい!」
と言って抱きついた。
昨日の夜のことをうまく伝えられなかったので、怖い夢を見たのだろうということになった。
その日の夕方。
祖母に頼まれて押し入れにタッパーに入ったご飯を取りに行く。
開けると上から何かが落下してきた。
反射的に受け止めるとそれは、あの、ミルク飲み人形だった。
























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