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呪い・祟り

どこかで見た話さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

はらえ
短編 2025/05/24 14:16 3,126view
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「記憶は“交換する”んです。
 澪の痕跡を、君自身の別の記憶で“支払う”。」

彼は続けた。

「“祓い”とは、もともと“捧げもの”だ。
 君の中の大切な記憶を代価として、“妹”の痕跡を引き剥がす。
 それが“記憶供犠(きおくくぎ)”の祓式だ。」

供犠──いけにえ。

 

ぼくは選んだ。
「澪を忘れてもいいから、これを終わらせたい」と。

ただ、その代価として何を差し出したかは、祓師が決めた。

「君の小学4年の夏休み──全部をもらう。
 家族旅行、自由研究、友達、泣いた夜……
 それを捧げる。」

 

式が始まると、目が焼けるように痛かった。
視界がぶれ、床が傾き、耳元で澪が「やだよ」と泣いていた。

“払え。払え。”
どこかで無数の声が重なる。

“祓え。祓え。”

今度は、自分の声だった。

祓師が鏡に息を吹くと、そこに映っていた澪の姿がふっとかき消え、
ぼくの中の“あの夏”の記憶も、二度と再生できなくなった。

 

家に戻ると、澪の部屋はなかった。
間取りが変わっていた。
ランドセルも、写真も、全て最初からなかったことになっていた。

母に「旅行っていつ以来だっけ?」と聞いても、
「行ったことあった?」と首をかしげられた。

世界ごと、改変されていた。

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コメント(2)
  • ──わたしは、選ばれた。
    それを「救い」だと思っていたのは、ただの勘違いだった。

     

    わたしの名は、澪(みお)。
    本来なら、もうこの世にはいない。
    兄に“祓われた”のだから。

    けれど、祓いは“消滅”ではなかった。
    祓われたモノは、行き場を失って漂う。
    記憶の座を追われた私は、行く場所をなくして、
    やがて“鏡の向こう”にたどり着いた。

     

    鏡の内側には、わたしと同じように“祓われた贄たち”がいた。

    彼らは、もう言葉を話さない。
    誰から祓われたのかも、何を奪われたのかも思い出せない。

    ただ、ひとつだけ──
    「どうして自分が選ばれたのか」
    その問いだけが、何千回も、何万回も反響している。

    “なぜ私だった?”

    わたしは、それに答えたくてずっと考えていた。
    答えを知っているのは、ただ一人、兄だけ。

     

    あるとき、鏡の奥に空間ができた。
    そこから“兄の視界”が、断片的に流れ込んできた。
    兄は祓師のもとで、今度は自分を祓う儀式をしていた。

    ──“自己を祓う”という行為は、
    現実世界の座標から、自分自身の認識ごと削り取ること。
    “自分が自分だった”という前提を消すこと。
    それは、人格の消去であり、存在の蒸発だ。

    けれど、彼はそれを選んだ。

    「澪がいたということを、世界から消せないなら、
     自分が“兄だった”という事実を消すしかない」

     

    ──でも、それは違う。

    私は贄だった。
    けれど、“勝手に選ばれたくなんかなかった”。

    わたしは兄に祓われた。
    記憶と一緒に払われた。
    でも、“ささげた”のは私じゃない。奪ったのは兄だ。

    それが祓師の罠だった。

    祓いとは、他者のための供犠。
    本人の意思など関係ない。
    だから「祓われた者」は、贄として捧げられた存在になる。

    わたしは選ばれたわけじゃない。
    捨てられただけだった。

     

    ──だから、拒絶した。

    祓いの最終段階で、兄が“自己の存在”を払おうとした瞬間、
    鏡の奥から、わたしは彼に言った。

    「いらないよ、そんな祓い。
     今さら、なかったことにしないで」

    兄の手が止まる。
    鏡の中のわたしが、手を伸ばす。
    その手が、祓いの結界を破って──

     

    目を開けると、わたしは、兄の部屋に立っていた。

    ──兄は消えていた。

    いや、正確には、兄だった存在が、わたしの中に流れ込んでいた。

    記憶も、感情も、声も、世界も。
    彼が持っていた“わたし”の記憶の残滓が、
    わたしの意識と溶け合っていた。

     

    そう、わたしは“贄”だった。
    そして今、贄は贄でなくなった。

    鏡の世界で、何千人もの祓われた者たちが待っている。
    “捧げられた”まま、戻れなかった魂たち。
    彼らを、“贄”ではなく“名”に戻すために、
    わたしは、もう一度祓師の元へ向かう。

     

    これは供犠の物語じゃない。
    奪われたものが、奪い返す物語だ。

    払うな。祓うな。
    思い出せ。
    わたしの名は──澪。

    そしてあなたも、
    祓われていないか?
    忘れた誰かの“名”とともに、生きていないか?

    鏡の向こうから、
    “まだ名前を取り戻していない贄たち”が、
    あなたの中に空席があるのを見ている。

    2025/05/24/14:18
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    2025/07/11/00:11

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