村瀬は、「ごめん、俺が変な話振ったせいで……また今度集まって飲みなおそうぜ」と明るい口調で声をかけてくれましたが、佐々木さんは心ここにあらずといった様子で、はいとも、いいえともつかない曖昧な返事をしただけでした。
その日は、それぞれが別々の方向に歩いて帰りました。
夜の街は静かで、遠くの踏切の音が、やけに長く響いていたのを覚えています。
* * *
それ以来、わたしたちは何度か連絡を取り合っていますが――
佐々木さんの口から、あの土地の話や、祖母のこと、そして「今はどうなっているのか」について語られることは、一度もありません。
でも、ひとつだけ気になっていることがあります。
以前、何気ない雑談の中で「最近あまり眠れなくて」と彼女がこぼしたとき、ふとこう言っていたのです。
「夢の中に、知らない人が立ってて。毎回ちがう場所なんだけど、いつも同じ背中が見えて、ずっと何かを呟いている。なんて呟いているかはわからないんだけど……なんでだろうね」
彼女はもう、ほどかれないのかもしれません。
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