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呪い・祟り

yukiさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

馘、括リ姫
長編 2025/05/16 14:53 16,273view
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歩を進めるうちに、今までの道とは異なる、10mほどの敷地に出た。
どうやら、ここが森の中心らしい。
俺たちの肝試しのゴールだ。
敷地は、今までの小道に比べれば、比較的整備されていた。
敷地の中心には、小さな御堂が建っている。
この御堂に中に、森に封印されているモノがあるのだろうか。
「なによ。苦労してここまで来てみれば、汚らしい御堂があるだけじゃない。」
さっそく毒づくA。
「せっかくだから、中に何が入っているのか、見てみましょ。」
Aの言葉を受け、Bが御堂を開ける。
鍵はかかってなかった。
御堂の中は、2m四方の空間になっていた。
最初に目についたのは、その空間の中心に浮かぶ、赤茶けた衣を着た、日本人形であった。
頭部の髪は異様に黒く長く、顔だけは陶磁器のように青白い。
表情は無く,両眼も薄く閉じられていた。
まるで、眠っているかのような表情だ。
人形の無表情が、御堂を開いた俺たちを迎える。
よく見れば、その人形の首にも、幾重にも縄が掛けられていた。
その縄の先は、御堂内の壁に括りつけられている。
浮いて見えたのは、そのせいであろう。
まるで首にかかった縄で、この人形を御堂の中に縛り付けているようだ。
よく見ると、縄には文字が書いてある。
どうやらこの縄は、何枚もの札を編み込んで作られているようだ。
間違いない。この丘の森の封印は、この人形のためにあるのだ。

Aは、無造作に手を伸ばし、人形に手元に引き寄せる。
ブツリと千切れる紙の縄。
「汚らしい御堂の中には、汚らしい人形があるだけ。つまらないわね。」
そう言って、手にした人形を地面に放り投げる。
地面にうつ伏せに転がる人形。首に巻きつく縄も、放射状に地に広がる。
…その瞬間。
俺たちを包む雰囲気が、豹変した。
森が、騒ぎ出した。
今までの静寂が嘘かのように、まるで台風が来たかのように、森全体が音を立てる。
枝葉ががざわめく音。
ヒトガタが擦り合う音。
木の隙間を風が通り抜ける音。

だが、騒音とは裏腹に、俺たちの周りには、風ひとつない。
地面に生えた雑草も、風に煽られることなく、動いてはいない。
ふいに、俺は、上下左右の感覚を失った。
めまいではない。
まるで重力がなくなったかのように、地面の感触を失う。
視界では、俺は両の足が地面を踏んでいる。
だが、俺の頭が地面を認識していない。
どちらが上で、どちらが下かも解らなくなってきた。
Bの姿も見失った。
揺れる感覚の中、俺は視線を感じ、その方向に目を向ける。
地面に放り投げられた人形が、仰向けになりながら、顔をこちらに向けている。
薄く開いた両の眼から覗く赤い瞳が、俺を睨みつけている。
放射状に広がる縄が、まるで蜘蛛の足のようだった。
あれ? さっき、人形はうつ伏せになってなかったか?
なんで、眼が開いているんだ?
俺の視線の先で、人形は、誰が触れることなく自ら首を動かし、今度はAにその眼を向ける。
その視線の先で、Aは人形を見つめたまま、硬直している。
瞬きを忘れ、口をだらしなく半開きにし、人形を凝視している。
Aの手が動き始める。両手を前に突き出し、動かし続けている。
まるで、『くるんじゃない』『いやよいや』『こないで』そうジェスチャーをしているようだ。
その手の先には、人形が横たわっている。
ふいに、人形の口がゆっくり動く。
口を開こうとしているのだ。
開いた口から、『ナニカ』が出てくる。
それが何だったのか、どんな姿をしていたのか、俺は見ていない。
いつの間にか目を瞑っていたからだ。
あの『ナニカ』を見てはならない。
俺の本能が、そう告げてた。
異様だ。ここは、本当に今までの森なのか。今までの事は、夢じゃないのか。俺は、現実感覚を失う。
「ワ…。ノ…キィ…。グ、キキィキキ…レ…ノ…。」
風が作り出していた音ではない。
俺は、異音に気付き、ふと我に返った。
人形はうつ伏せのままだ。隣にはBがいる。
風の音も止んだ。
森のざわつきもない。
俺は隣にいるBに目を向ける。

Bは、Aを凝視していた。
Bの目線の先では、Aが、『壊れていた。』
Aは、直立のまま、首を軽く横に傾けた姿勢でいた。
その顔からは表情が消え、
目線も定まらず、
眼球を細かく揺らしている。
口元からはだらしなく涎を流し、
奇怪な音を発している。
先ほどの異音は、Aの声だったのだ。
「おい、大丈夫か!?」
BがAに駆け寄るが、AはBを意に介することなく、「グギギ…」と異様な声を発し続けているだけだった。
「おい、おい!」
奇声を発するAの体をBが揺らし続ける光景を、俺は、呆然と眺めているしかできなかった。
その時。
「おい、お前ら!」
野太い声とともに、懐中電灯の光が俺たちを照らす。
「何をしてやがるんだ!」
光の先には、作業着を着た中年の男がいる。
丘の麓の管理人小屋の職員のようだ。
作業着の男は、俺たち三人を順番に照らし出し、Aの異様な姿に眉をひそめ、そして、荒らされた御堂と、地面に転がる人形を見つめる。
「まさか…、お前ら、この人形に何かしたのか!」
作業着の男が怒声で質問しながら、俺たちに詰め寄る。
俺とBは、無言で頷く。
「途中の門とお地蔵様を壊したのも、お前らか!」
作業着の男の怒声に、俺たちは身を縮めて頷く。
「そっちの娘は、人形に触れて、そうなっちまったのか?」
作業着の男の質問に、俺たちは躊躇いながら、はい、と返事を返す。
「なんてことをしてくれたんだ…。お前ら、とんでもないことをしてくれたな! いや、説教は後回しだ。早く『護所』に連絡せにゃならない…。おい! お前たち二人は、一緒に来い。一刻も早く、丘を降りるぞ!」
作業着の男は俺とBの手を掴み歩き出す。
「え、Aはここに置いてくんですか?」
Bが作業着の男に問いかける。
「その娘は、もう手遅れだ。」
「て、手遅れって、どういうことですか?!」
Bは男に食ってかかるが、
「うるさい! 早く来るんだ!」
男の剣幕に、俺たちは黙ってついて行くしかなかった。

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