丘の麓の管理人小屋で俺たちは所在なさげに時が経つのを待っていた。
作業着の男…森の管理人は、俺たちやAの住所などを聞くと、急ぎ出て行った。
俺たちは、Aを森に残して逃げることもできず、事態が進むのを待つしかなかった。
どれほどの時間が経ったか。管理人室の扉が開く。そこには、年配の坊さんが立っていた。管理人も、隣にいる。
坊さんは、俺たちに話しかける。
「今、森に入り御堂を見てきました。結論から言います。あなた方は、とんでもないことをしてしましました。Aという女性は、二度と元には戻りません。」
「ど、どういうことですか!?」
俺とBは、声を合わせて、坊さんに詰め寄る。
坊さんは、説明する。
「あの娘は、『括リ姫』に取り憑かれてしまったのです。」
括リ姫?
俺は、鳥居の前の石碑にあった文字を思い出す。
『馘括姫ヲ封ず』
石碑にあった名前がそれですか、と俺は坊さんに尋ねる。
「はい。馘括姫、禍津括乃姫御子など、伝承では呼ばれていますが、私達『護所』では括リ姫と呼称しています。
括リ姫は、関わる人間全てに呪いを振りまく、不幸な存在です。
私達『護所』は、昔からあの森に括リ姫を封印してきたのです。」
俺は、石碑の言葉の続きを思い出す。
『ただちに立ち去れ』
『封を侵す全てのものは呪い括られ吊り殺される』
『呪詛は人の言葉を持って拡散し多くの民を呪うであろう』
『入るなかれ。穢すなかれ。壊すなかれ。封を解くでなかれ』
俺たちは、括リ姫の封印を破ったのだ。
そして、直接人形に触れたAに取り憑いたのだ。
「Aは、どうなるんですか?」
Bが坊さんに聞く。坊さんは、
「Aさんは、括リ姫の際封印のために、『護所』の封印の間で呪詛を弱める処置を行うことになります。…長い時間がかかりますが。」
つまり、護所というところに閉じ込められることになるのだろう。
「閉じ込めるなんて…。ひどいじゃないですか! もっと、パパッと、そのなんとか姫を退治する方法は無いんですか!」
詰め寄るB。
坊さんは、
「呪詛を弱めねば、括リ姫に関わったあなた方が祟られます。
呪詛を拡散しないために、必要な処置なんです。
Aさんは、もう死ぬまで、括リ姫から逃れられることはできません。
ですが、Aさん一人が犠牲になれば、あなた方だけでなく、多くの人が助かるのです。」
そう告げる。
「俺たちが…。」
絶句するB。
その隣で。俺は。
Aが犠牲になれば…。
助かる…。
俺は助かるのか。
「他にも、括リ姫を封印する方法はあるのですが、どちらにしろ、犠牲者が出ます。
この方法が、最も理にかなった手段なんです。まことに残念なことなのですが、Aさんの両親にも、話は済んでいます。」
「そんな…。」
言葉を失うB。
俺も、Bと共に俯いて落ち込んでいる様子を見せる。
しかし心の中でh安堵の息をつく。
…Aがいなくなれば財布の中身が寂しくなるが、死ぬよりはましだ。
スリルも味わって、好奇心も満たせたし、楽しい冒険だった。マジものの恐怖体験なんて、なかなか味わえないからな。
もう恐怖はない。
だったら括リ姫の伝承ってやつを、もっと詳しく聞いておくかな。
俺は心の中でそう算段をする。
俺は、落ち込んだ風体を崩さないように、括リ姫の伝承を、坊さんに訪ねてみた。
同情心からか、坊さんは、躊躇うこともなく、俺に伝承を聞かせてくれた。
「わかりました。話しましょう。」

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。