あの話を母から聞いたのは、中学生のころでした。
最初は半分笑い話のように聞いていましたが、あの話を聞いたあとから——時々、奇妙な“既視感”に襲われることがありました。
たとえば、知らない場所を訪れたときに、
「あ、この角を曲がると、石の祠があるな」
と感じて歩いてみると、本当に小さな祠があったり。
誰もいない夜の帰り道、ふと後ろを振り返っても誰もいないのに、“安心感”だけが背中にあるような感覚になったり。
そんな体験がいくつか重なったある日、大学生になった私は、ふと一人であのとき迷子になった神社に行ってみようと思い立ちました。
小さな鳥居と石の階段、隣にある大きなクスノキ。
母の記憶と地元の記録をたどって、ようやくたどり着いたその神社は、住宅街の片隅にひっそりとありました。
誰もいない境内で手を合わせたとき、風も吹いていないのに、背後で**「カラ…ン…」と鈴の音がした**のです。
振り返っても誰もいない。
それでも、私の胸の奥では、確かに何かが「近くにいる」と感じていました。
そして帰ろうと鳥居をくぐろうとしたとき、視界の端に何か黒い影が立っているのが見えました。
驚いてそちらを向いたけれど、そこには誰もいない——
…はずでした。
でも、空気が変わったんです。
そこだけ、空間がひんやりと、静かで、時が止まったような感覚。
そのとき、ふと昔の夢の記憶が蘇ってきました。
黒い服の、細長い「何か」が、私の手を引いて歩いていたあの夢。
私は自然と、声にならない言葉を心の中でつぶやいていました。
「……あなた、まだ、そばにいてくれたんだね」
すると、まるで返事のように、木の枝が揺れて鈴のような音が「チリ…ン」と響きました。
そしてそれを最後に、不思議とそれ以来、「既視感」や「後ろの気配」はなくなりました。
まるで——
> 「もう、あなたは大丈夫だね」
と、言われたかのように。
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