「また前を向こう」
「二人で乗り越えよう」
お互いを思いやる言葉をかけ合い、手を取り合って進んでいった。
日々の小さな喜びを分かち合い、時には一緒に息子の思い出を語り合いながら。そうして少しずつ、私たちの絆は以前よりも深まり、生活は安定を取り戻していった。
息子の一周忌を過ぎた頃、私たちは少しずつ未来を考え始めていた。
「もう一度、子供を」
その話題が、自然と二人の間で出ていた。Iも同じように考えていたようだった。彼女は時折、「次の子は女の子が……」と、笑顔で語ることもあった。悲しみを乗り越え、新たな希望が芽生え始めていた。
だから、あの三年前の夕暮れは、そんな日々の一コマだった。息子を失い、それでも二人で力を合わせて乗り越え、温かい家庭を再構築していた、幸せな日常の一場面。まさに私たちが最も穏やかで満ち足りていた時だった。
リビングのソファに座り、テレビを眺めていた。Iはキッチンで夕食の準備をしている。静かな時間が流れていた。
その時だった。
カタ、カタ。
いつも聴きなれていた、小さな足音が聞こえた気がした。
「T?」
思わず声に出してしまい、そして自分の愚かさに気づいた。息子はもういない。もう一年も前に。
だが、確かに聞こえた。小さな足音が。
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