「なにか聞こえた?」
キッチンのIに声をかけると、彼女は首を振った。
「何も聞こえないわ」
気のせいだったのか。そう思いかけたその時、ソファが沈んだような感触があった。
隣に、誰かが座った。
振り向くと、そこには誰もいなかった。だが、ソファーの上に、Iのスマートフォンが置かれていた。
「このスマホ……」
手に取ると、その瞬間、画面が明るくなった。LINEの通知だった。
『急に連絡が取れなくなって心配してた。一年ぶりに会わない?旦那さんがいない時に……』
送信者の名前は男性のもの。見知らぬ名前だった。
「貴方どうしたの?」
Iの声が背後から聞こえた。振り返ると、彼女は青ざめた顔で立っていた。たった今まで厨房で微笑んでいた妻とは別人のようだった。
「これは……誰からのメッセージだ?」
私の問いに、Iは言葉に詰まった。その様子は、私たちが再構築してきた関係とはあまりにもかけ離れていた。たった数分前までの温かな雰囲気は、一瞬で凍りついたようだった。
「見間違いじゃないか……私、スマホはずっと…」
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