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妖怪・風習・伝奇

ないものさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

こなきじい
長編 2025/04/06 21:00 1,364view

この怪異のことを、田無の人々は「枯」渇して「亡」くなる「爺」から文字をとって、「枯亡爺(こなきじい)」と呼ぶのだそうです。
一般的によく聞く妖怪の「子泣き爺」と響きは同じなのですが、中身はまったく異なります。

「へぇー、そんな言い伝えがあったんだ……近くに住んでるのに、そんな話一度も聞いたことないな」

わたしは、この聞いたことのない怪談に、とても心が惹かれました。
オリジナリティの高さにも惹かれましたが、それ以上に怪異の造形にもの珍しさを感じたのです。

怪異や幽霊の多くは水場にまつわるものが多いものですが、この怪異は「渇き」に関する存在でした。
とても異様で、異質です。
今まで聞いたことのない類の怪談に、恐怖よりもむしろ興奮を覚えたように記憶しています。

枯亡爺について詳しく知りたいわたしは、半ば詰め寄るように友人に問います。
その話はどこで生まれたのか、誰から聞いたのか、いつから知っているのか。

しかし、友人の受け答えは空返事が続きます。
「発祥は知らない」「どこで聞いたっけな」「いつから知ってるっけな」などと、ふわふわとした口ぶりが続きます。

わたしは、その口ぶりから、友人が即興で考えた怪談なのかと一瞬疑いましたが、失礼ながら友人にそんな能力があるとは思えませんでした。
きっと、本当に田無市では広く伝えられている怪談なのだろう。
そう自分に言い聞かせることにしました。

友人の受け答えの曖昧さも相まって、怪談話は早々に切り上げられ、わたしたちは日が暮れるまでまた変わるがわる尽きない話題を梯子して、雑談にふけりました。

***

「ありがとう。楽しかったからまた誘ってよ。今度はオレん家で遊ぼうな」

日が沈む頃合いで、友人の家をあとにしました。
帰り道の途中でひとり一日を振り返るわたし。

楽しかった一日を反芻する中で、さっきまで気にならなかった「枯泣爺」の話が妙に引っかかりました。

──そんな話、あまりに聞いたことがなさすぎる。

さっきまでは何となく受け流していましたが、ひとりになった途端、急に違和感が膨れ上がりました。
ぞわり、ぞわりと……背筋を這い上がるような寒気が走ります。

冷静に考えると、地元が近いにもかかわらず、こんなに特徴的な怪談がまったく知られていないのは不自然ではないか?
怪談好きの私のこと、どこかで少しは耳にしていてもおかしくないはず。
むしろ、これほどの話を一度も聞いたことがないほうが異常に思えました。

では、友人が作り話をしたのか?
しかし、そう考えるには話のディテールがあまりに緻密すぎます。
先ほども記した通り、友人にそんな能力はないと、はっきり断言できます。

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