そんなことよりさとるが驚いたのは、男の首がまるで首長族のように異様に長いことだった。
男は笑みを浮かべながら彼の正面に座る。
それでとりあえずこの男に父のことを教えてあげようと、さとるが「あの、、」と口を開くよりも先に男は
「いやあ30年前に突然お前が逝ったということを耳にした時は俺も驚いたがな。
まさかその数年後に俺までそうなるとは予想すらしなかったな。
お前の場合はどうだったか知らないがな、俺は今考えても何であんな大それたことをしたか分からないんだ。
家で酒飲んでたら突然どこかから女の声で『死ね死ね死ね死ね』て聞こえてきて、そしたら妙な気分になってから居ても立ってもいられなくなってな。
気が付いたら脚立の上に乗っかってから縄の輪っかに首を通していたんだよな。
それで結局、、、」
と言うと長い首を指差した。
顎下の首筋に青黒いアザのような痛々しい跡がある。
それから男は照れ臭そうに頭をかくと、まあ飲めよと瓶ビールを差し出した。
さとるは目の前のグラスに注がれるビールを眺めながら考えていた。
━どうやらこの男は俺を父と勘違いしているようだ。
まあ確かに俺は今年40で父の享年と同じだし、母にはよく生前の父に似ていると言われていた。
ただこの男は一体なんなんだ?
何を言ってるんだ?
「ほら、俺たちがよくいじめていた葉山が、あそこのテーブルに座ってるぞ」
そう言って男は少し離れたテーブルを指差した。
そこには真っ赤なドレスを着たガリガリに痩せた女性がポツンと一人座っている。
長い黒髪で顔が隠れてよく見えないが、前髪の隙間から凄い目でじっとさとるたちを睨んでいるようだ。
男が続ける。
「あいつ昔から見た目はあれだし、性格も暗くてどこかねじ曲がってたよな。
ああ、そういえばあいつ、
クラス委員長の早瀬を一方的に好きになったことがあったけど、案の定全く相手にされなかったよな、お前も俺もそれをネタにして彼女をよくからかってたな。
そして葉山のしつこいアプローチにいい加減切れた早瀬が酷い言葉で彼女を罵った時あいつ、いきなり教室内でカッターナイフを振り回したことなんかもあったなあ。
あれには教室の全員が本当に驚いたなあ。
お前も知ってるだろうが彼女、卒業式の当日に自宅の自室でリストカットして亡くなったんだよな。
遺書にはお前と俺や早瀬の他、数人の男女に対する恨み辛みが書かれていたそうだ。

























なぜ草なんだろう?
草葉の陰からという言葉にもあるように、
草というのは、冥界をさす言葉でもあるようです。
─ねこじろう