よくよく考えれば、あの二人がいるはずもない。
私は自嘲の笑みをこぼして視線を落とした。
何があったと思う?
漆塗りの衣装箱だよ。
失踪した二人が埋めたはずの衣装箱が、そこにあったんだ。
初めて目にしたはずなのに、私はそれが例の衣装箱であると信じて疑わなかった。
何者かが掘り返したのか。
話に聞いた通り、鍵が壊された形跡もある。
開けるべきか迷ったさ。
でも、もしかすると失踪した二人の手掛かりを得られるかもしれないだろう。
そう考えて、意を決して衣装箱の蓋を外してみることにしたんだ。
だが、すぐに戻した。
手掛かりなどとんでもない。
私は見たことを後悔した。
割れた手鏡と精巧な人形。
鏡の破片が底に散らばっていた。
そして仰向けに寝かされた人形。
その目は見開かれ、まるでこちらを見ているようだった。
衣装箱はそのままにして、逃げるように帰ったよ。
ここまで話をすると、男性は冷めたコーヒーを口にした。
わたしも自分のコーヒーカップを手にする。
どう反応を示してよいか分からない時、気まずさを隠すためにそうするのだ。
それから、彼は腕時計に目をやって「もうこんな時間か」と立ち上がった。
「この話、書いてもらえるのかな」
彼はいたずらっぽく微笑んでいる。
「きっと書きます」と頷くと、彼は満足そうな顔でハットを被った。
そうして、わたしが見送りのために入口の前まで後をつけて行くと、彼は振り向きざまに真剣な眼差しでこう言ったのです。
「衣装箱を見つけたあの日以来、誰かの視線を感じるんだ。
家にいる時も、外にいる時も。
ここへ来れるのは、もう最後かもしれない」
そう言って喫茶店を出て行く彼の後姿を、わたしはいつまでも見つめているのでした。


























今日いちばんよかった
映像化してほしい
引き込まれました。
引き込まれました
よかった。怪異の実態は直接そこに現れる事も無く、けど情景はしっかり目に浮かんで怖かった。
地味に怖い
その婆さん何者だよ
強すぎじゃね?
やっぱり怪異はこのくらいの書き方の方が映えるね
超常現象かどうか微妙なラインでとどめておくのがベスト
老婆がどんな呪いをかけたのかを明確には言わないのも良かった
そこで神主が人形を使ったどうたらこうたらの呪いですと説明してたら正直萎えてた
この作品を正当に判断できる評価者がいることを切に願う。今まで数々の怪談を目にしてきたが、この作品はクオリティが違う。文学作品としての気品すら感じる。
これ読むと他の話が幼稚に見える
箱に入った人形と鏡が、「後遺症ラジオ」の〃おぐしさま〃で再生されてゾッとした
この話は有り得ない
あの時代だったらこの婆さんは呪いをかける前に居なくなっているはずだから
言い方変だけど、よく出来てるなぁと思った
だからタイトルの「向かい合わせの怪異」というのにも意味があると思うんだけど、考えてもわからない。何が向かい合わせなのかわかる人いる?
もう小説家デビューしていいクオリティ。
引き込まれた。
読み応えありました。
過去似たような怪談を目にしましたが、クオリティの高さではトップクラスですね。
難をいえば、タイトルで損をしていると思います。
私の想像力が不足していることもありますが、どなたかも指摘していたとおり、「向かい合せの怪異」とした理由と根拠がいまいちわかりにくい点でしょうか。
本文を読み進むうちに、なんというタイトルだったかすら忘れてしまうほど優れたストーリ展開なので、単純にもったいないなぁと思った次第です。
サトウと友人の幻覚怖っ
あもすっごぃ。
今まで見た中で1番文章力が高い。プロの小説家かと思いました。
恐怖は快感だが、ビックリするのは不快。
文章ホラーのいい所は映像ホラーみたいにデカい音と視覚効果でビックリさせて満足する駄作が無い所だな
いい作品でした。