もみじ山
投稿者:マチノスケ (16)
私はもう何も考えられなくなりました。考えたくありませんでした。これは何か悪い夢でも見てるんだと無理矢理に自分を納得させました。
次の日、彼は大学に来ませんでした。それどころか、
誰も彼のことを覚えていませんでした。周りに聞いても、まるで最初からそんな人いないかのような反応をされました。彼と一緒に受けていた講義の履修登録者の一覧から、彼の名前が消えていました。携帯に入っていた彼の電話番号もメールアドレスも、いつの間にか消えていました。彼が住んでいたアパートを訪ねても、彼の部屋はずっと空き部屋だと言われました。
彼に関わる何もかもが、なかったことになっていました。
探したかったけど、捜索届が出せませんでした。当たり前です。私以外、誰も彼を認識していないのですから。「いなかったことになった」なんて言ったって、信じてもらえるはずがありません。そのうち私も、彼のことを思い出せなくなっていきました。
そんな時、あの詩を思い出したんです。あれだって今考えれば変なんです。あれは地元に伝わる、もみじ山の民話みたいなものだと思っていました。でも祖母以外にあの詩を知っていた人が、誰もいないんです。祖母はいったい誰から、どうやって聞いたんでしょうか……その事が、そもそもあれが彼の失踪と関係あるのかなんて分かりません。分からないのに、何か嫌な想像ばかりしてしまうんです。あの出来事があってから、もみじ山が忌々しいものにしか見えなくなりました。今ではもう、彼の顔すら朧げです。
今年も秋が、もみじ山が色づく季節がやってきますね。あの茜色が年々深く美しくなっていると、愛好家たちの間で話題だそうです。
あの出来事が、どうか何かの間違いでありますように。もみじ山が、どうか紅葉が有名なだけの普通の山であり続けますように。そして……あの詩の続きが、どうか穏やかなものでありますように。
──そんなことを、祈るばかりです。
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夕暮れの もみじの下で 呟いた
落ちた葉は 一体どこへ いくのかな
枝離れ 舞い散る葉見て 呟いた
きっと お空に溶けるんだ そんで お空の色になる
夕暮れの もみじの下で 微笑んだ
もみじさま なんでそんなに きれいなの
夕暮れの もみじの元に 囁いた
艶やかな もみじの色香 魅入られて
捧げ もみじに溶けるんだ そんで もみじの色になる
夜中に金華山に登ると良いことがある。ただ調べていくと、何もいい事は無い。調べずに無心で行くということがある