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不思議体験

マチノスケさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ゆきめ
長編 2025/01/01 23:28 1,131view

 その瞳は全部の色をぐちゃぐちゃに溶かして混ぜた絵の具のように、濁った汚い色をして、崩れていました。そして、異様なほど血走っていました。その目は声も出せずに固まってしまっている私を、じっと見つめていました。ただ不気味だった、そして恐ろしかった。でも私は、その目から怒りだとか悲しみだとか……そういった感情の類を読み取ることができなかったんです。あんなにも非現実的な状況と光景であったのに、目そのものは驚くほど無垢でした。

 そうして、長いとも短いとも分からない時間が経ったあと。

 その目は静かに閉じていき──

 ただの、積もった雪に戻りました。

 夢だと思い込むには、あまりにも鮮明でした。

 得体の知れない恐怖と、何が起こったのか何故起こったのか分からない、気色悪い後味の悪さだけが残りました。

 私は、何を見たのでしょうか?

 あれを見てから、私は雪が怖くなりました。いや、それだけでなく白くて無機質なものが怖くて堪らなくなりました。白い壁が、白い冷蔵庫が、夜道を照らす白い電灯が。日常で目にする、ありとあらゆる白いものが。あのなんでもない……「なんでもない」ということを押し付けているような真っ白な表面が。いつか急に裂けて割れて、またあの目が現れるんじゃないかって。

 もちろん暗闇だって、幽霊や妖怪だって怖いです。

 いかにも何か出そうな雰囲気があって。
 何か恐ろしいものが出る謂れがあって。
 そんな土台があって成り立つものも、十分に恐ろしいと思います。

 しかし、何もないという確信から覗き込んでいた「あれ」の恐怖は、何よりも本能的で、そして純粋なんです。

 私は民宿を出る時に、恐怖と動揺を抑えながら何でもない風を装って、ご主人に「ゆきめ」について聞いてみました。私が見たものを知っていたり何かそれらしい噂などがあれば、まだ納得できたから。それが怖いものだったとしても、とにかく説明できる何かが欲しかったから。しかし、彼と奥様が昨晩に話していた「ゆきめ」というのは私が見たものとは何の関係なく、もちろん「雪女」の別名でも地域に伝わる怪異でもなく、ただ一般的な単語としての「雪目」……つまり雪面で強く反射した日光の紫外線で目に炎症が起こることを気をつけないといけないと言っていただけでした。

4/5
コメント(1)
  • 「ぬ~べ~」に出てくる美女の雪女ではなかったか
    残念

    2025/01/06/17:28

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