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心霊

タンドリーチキンさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

雪山
長編 2024/12/27 23:30 1,668view
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厳冬期の雪山登山の話です。
私も若い頃はパーティーメンバーを募ってグループで登っていましたが、40歳を過ぎた頃からはスケジュールの関係もあり単独登山がメインになってきました。
今からお話しするのは、単独縦走登山での体験になります。

1日目、2日目は晴天の空模様で、順調に登山を進めていました。3日目はどんよりとした暗い雲が広がっていましたが、お昼頃までは雪も降らず予定通りピークを越えることができました。

このルートはバリエーションルートと言ってメインの登山道ではないこと、冬季は難易度が格段に上がるため登山者自体が少ないこともあって、2日目以後は誰ともすれ違うことがありません。

孤独との戦いではありますが、登山とは自分と自然との戦いであり、自然との対話であると考えております。

風を凌げるスペースで休憩を取りながら次のコルをどう乗り越えるか、地図とコンパスで睨めっこしていました。ふと岩陰に目を移すと赤いジャケットの端が見えます。人が倒れているのかと思い、急いで岩陰に向かうとそこには白骨化した遺体が蹲るように座っているのでした。ジャケットや登山ズボンは汚れてはいますが健在で、顔の部分を見なければ普通の登山者が座っているだけにも見えます。靴やストックなどは見当たりません。

遺体を見るのは初めてでとても動揺しました。軽く黙祷した後、ゆっくりとその場を離れます。直視することが出来ず、遺体の斜めに辺りに視線を合わせて行動してました。

メインの登山道から離れていること、崖下であることを考えると、転落して助けを待つ間に亡くなったか、道に迷って力尽きたか。
歩くこともできず、救助が来るのを今か、今かと待ち続けて1人で亡くなった故人の気持ちを考えると本当に怖くなりました。

携帯の電波が届くところに出たら通報しようと考え、元来た道を戻るか、先に進むか悩みます。順調に行けば5日目には下山出来る道のりでしたので、出来るだけ早く故人を収容しようと、先を急ぐことにしました。

山の天気は変わりやすく、朝晴れていても1時間程度で急に吹雪になったりします。
確かに3日目遅くから4日目は天気が荒れる予報でしたので、予備日を含めて余裕を持った登山計画書を提出していました。なんとか天気が持ってくれれば良いなという希望的観測は当たった試しがありません。

遺体を発見した地点から1時間も歩くと先が見えないほどの吹雪となってしまいました。
結局この日のコルの取り付きは諦め、雪洞でビバークを決めます。

雪洞とは、『かまくら』のようなものです。雪山の斜面に横穴を掘り進み、入り口にツェルトというカバーのような物をかけ、雪や風が入り込まないようにします。このかまくらの中で煮炊きをしたり、寝袋で寝たりします。

朝早くから緊張の連続だったため、寝袋に入ると同時に気絶するように寝てしまったようです。真っ暗な雪洞で目覚めたのは、小便に行きたくなったからでした。
入り口のツェルトをめくると吹雪はいつの間にか止み、満天の星空が迎えてくれました。

小便を済ませ、寝袋に再度入りますが、あまりの寒さに中々寝付けません。

雪洞は雪が音を吸い込むため、信じられないほど静かです。
時折聴こえる強風の音以外は何の音も聞こえず、真っ暗な中で眠れない夜を過ごしました。

ガタガタ震えながら、明日こそは難所を超えて下山するぞ、でもなんでこんな山に来てしまったんだ、いや自然と自分との戦いなんだ、とにかく早く朝になってくれ、などと考えていると、外からサクッとサクッと雪を踏む音がします。

クマやシカなどの大型動物の音かと思いましたが、オーバーパンツ(登山服のズボン)が擦れるような音と、カラビナかテルモス(コップ)のような金属がカチカチと打ち合うような音も聞こえてきます。こんな吹雪の夜間にこの難所を登攀しているのは正気の沙汰ではありません。まして、この後吹雪は止み、明日の天気も希望が持てる状況です。

何か緊急の事態があり、自分のラッセル(雪をかき分けた跡)を追って来たのかと考え、雪洞の入り口のツェルトをめくりました。

外は相変わらず真っ暗で、人っこ1人いません。足跡すらないのです。あまりの寒さに幻聴でも聞いたのかと考え、再度寝袋に潜り込みます。
今度はツェルトの前で息遣いが聞こえてきました。先ほど周りに何もいないことは確認済みです。寒さで震えているのか、得体の知れない何かに震えているのか、自分でもわからないまま時が過ぎていきます。
いつの間にか、誰かが狭い雪洞の中に入って来た気がします。
人が2人入れるほどの大きさは、ここにはないのです。
明らかにおかしい息遣いが自分のすぐ傍に聞こえます。
必死に目をつむり、出ていってくれ、早く朝になれ、と念じました。
気配がふっと軽くなったと感じると、今度は耳のそばで『さむい、さむい、、』と自分ではない声が聞こえます。
あまりの怖さに歯がガタガタ音を立て、何も考えられません。
永遠に続くかと思ったその声も段々と小さくなり、最後に小さな声で、たすけて、、、と呟いて気配が薄くなっていきました。

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