ハイキング
投稿者:タンドリーチキン (2)
大学生の夏休みのこと。男友達4人でN県に旅行に来た。山の風は涼しく、ワイワイ言いながら山をハイキングしていた。山といっても標高は低く、そこまで有名な山ではないため、人もほとんど通らない。たまに会うハイキング客とは元気に挨拶していた。若いのに偉いねーなどと、何が偉いのか良くわからないがハイキング客から褒められたりして、4人はテンション高く登っていく。
地図によるとあと少しで頂上、というとき、Aという友達が『こっちの方がショートカットできるじゃねー?』と言い出した。
確かに、地図を見ると点線で薄く直線ルートが書いてある。今まで楽な道だったこともあり、少し険しいルートも超えてみたいような高揚感に包まれる。頂上まで巻き道になるルートを外れ、獣道のようなルートで頂上を目指すことにした。
今までの歩きやすかった道とは違い、頭上には木が生い茂り、辺りは薄暗くなっていく。木の根や枯れ枝に躓きそうになることもあり、次第にみんな無言で下を向いて歩いていた。
『そろそろ頂上に着いてもいいんじゃねー?』
言い出しっぺのAが立ち止まって地図を見ている。確かにもう頂上に着いても良い頃だ。だが、目の前にはかろうじて道とわかるくらいの獣道が一本続いているだけで、開けた頂上に向かう様子は全くない。
『どっか間違えたかなー??』
少し不安そうにBが訴えるが、Aは『一本道だったよなー??』と不思議そうな様子で後ろや前を確認している。
木が生い茂っているせいで、太陽の位置もぼんやりとしかわからないが、まだかなり高い位置にあるようだ。あまり考えたくはないが、遭難ということもあり得る。一旦別れ道まで戻るべきだとCが主張した。ヤンヤ、ヤンヤ、3人で話していると、少し離れて立っているDの様子がおかしい。
いつもだったらこういうときは冗談とかを言って笑わせてくれるタイプのDが、黙って下を向いて突っ立っている。
『おい、Dどうした??具合悪いのか?』
Aが心配そうに尋ねた。
Dは聞こえてないかのように動かない。
1番Dに近い位置にいたBが歩いて、Dの方に向かう。
顔を覗き込むように屈んで声をかけようとした瞬間、『わーーー!!!』とBが叫んで、後退りした。尻餅をつくような格好になる。
『えっ?』『なにっ?どうした?』
AとCは何が起きたのかわからず、呆然としている。
Bは腰を抜かしたのか、這うような姿勢でDから遠ざかろうとしている。
『おい!どうしたんだよ?』
と慌てた様子でAが近寄ると、Bは、『来るなー!』と大声で牽制してくる。
何があったのかわからないAとCはオロオロして、どうして良いかわからない。
そんな喧騒の中、Dは微動だにせず下を向いたまま立っている。そういえば、下を向いてた顔が少し上がって来た気がする。Cは、地べたを這っているBを横目に見つつ、Dが顔を上げるのを待った。
AはとにかくBが腰を抜かして這ってくるのが心配で、Dの方には注意を向けていない。来るな、と言われた手前、Bにどうしてあげたら良いのかわからず、Bに『何があった?どうした?なんでそっちに行っちゃいけないんだよ?』などと、声をかけている。
さっきまで木漏れ日が気持ち良いくらいの陽気だったのに、いつの間にか薄暗く、霧が出て来た。気のせいかもしれないが肌寒い気もする。
CはDから目が離せず、凝視するような姿勢で立ち止まってしまった。頭の中では何故か『早く逃げなきゃ』という焦燥感にせき立てられている。
Dはゆっくりと顔をあげた。その顔をCは凝視している。Cは目を大きく見開いた。
AがCの様子に気付き、Bを助け起こしつつ、Cの側に寄る。
Cは、口を大きく開け、何か大声を出しているような表情だが、声は全く聞こえない。目はまばたきもせず、涙を流している。
尋常じゃない様子のCを見て、思わずDの方を振り向いた。
すごくこわい~