後ろから「乗らないの?」と鎖が少し楽しそうに聞いてくる。
鎖の顔を睨むとクソ女めと心の中で叫んで俺はSuicaを押した。
もし最悪の事態が起きようものならせめて鎖だけでも道ずれにしてやろうと、半ばやけくそな心境で俺は乗車した。
流石にその女の席には座らず鎖と同じように車内前方のつり革に手を伸ばす。
あの女は少し寂しそうな顔をしてこちらを見つめている、いつものように俺が座ってこない事に違和感を感じているのだろうか。
だがそうしているだけでバス車内で襲ってくるといった事はしないようだ。
鎖はというといつも通り本を開いている。
きっとこの女には自分の身を守る手段があって、それが俺には無いという事なのだろう。
しかし、こんなドS女でも唯一俺の状況を知ってくれている人がそばに居ると思うと、不思議と心は安堵に包まれるのだった。
そうして地獄の門の前でビバークしてるような心境でバスに揺らされているとはたしてバスは駅の前に到着した。
全ての乗客がバスから降りた後もあの女だけはあの座席に座り続けていた。
終始俺を見つめていたが、俺はそんなゾッとする視線から逃げるように改札へ走った。
その日の授業は全く頭に入ってこなかった。
まあいつも聞いてないから一緒か。
頭の中はあのお化け女の顔と鎖の「今夜中には死ぬ」という言葉でいっぱいになっていた。
昼休みになって俺は中庭へ向かった、昨日は片手に焼きそばパンを持っていたが、今日は手ぶらだ。
食欲はなりを潜めている。
「よ」
昨日と同じようにベンチに座る鎖に声をかける。
また石を投げつけられても困るので少し離れた位置から話しかけた。
俺を見るなり鎖は「もう何も言うまい」といった顔でいつも通り俺の挨拶を無視した。
鎖の手には1口かじったカヌレが握られていた。
薄々感じていたがこの女甘党だな。
「なぁ、単刀直入にいうんだが……助けてくれないか」
「朝も言ったけど……嫌よ」
まぁ、分かってはいた。
























えっ、最後びっくりした
「床に落ちた何か」てなんだったの?