事故物件
投稿者:きのこ (6)
おそらく大怪我か、死んでいただろう。
宴会用の大皿は、地震対策でゴムのマットが敷いてあった。上の方がずれて落ちたのなら分かるが、なぜ全部まとめて落ちてきたのか、理解できない状況だ。
誰かが持ち上げてパッと手を離すか、全部まとめて横から勢いよく飛ばさなければ、そんな事にはならない。
アルバイト先の焼肉屋は、地元で有名な心霊スポットだったが、いくら怪奇現象の多い店でも、そんな命に関わるような出来事が起こったのは初めてだった。
血だらけの私を見て、
次は自分の番ではないか———、とみんな怯えていた。
他の従業員達には、私の腕に掴まっている男の子は視えないからだ。
ただその時、従業員の中に1人だけ霊感の強い女性がいて、彼女は私なんかと違って、ちゃんと視える人だった。
そして彼女は ぼそっと、
「また厄介なものを……」
と一言呟つぶやいて、仕事に戻っていった。
私には、霊体の顔はよく視えないが、取り憑いているのは小さな可愛らしい男の子に視える。
他と違う事と言えば、私は人ならざるものが影として視える時、大体は周囲と同化した感じか、緑色や黒っぽく視えるが、
彼は赤に視える。それくらいだ。
しっかり視えている彼女には、どう視えているのか訊こうとしたが、しばらくの間、徹底的に避けられて、電話にも出てもらえなかった。
『厄介』とは一体何のことなのだろう。私は、腕に掴まっている男の子を視ながら、それまでとは違う不安を覚えた。
車の免許を取ってからは、事故に合う事が多くなった。
もちろん自分が起こした事故ではない。
ある時は直線の道路なのに、対向車が突っ込んできた。
私はすぐに気付いてハンドルを思い切り左へ切り、避けたが、ものすごい音と衝撃があって、運転席のドアは吹き飛んで行った。
ぶつかってすぐは身体の痛みは感じずに、自分にも聞こえるくらい大きな音で心臓が早鐘を打っていて、しばらくは呆然としていた。
映画でそんなスタントを観た事はあるが、いくらお金を積まれても、もう一度やろうなんて思えない。しばらくは怖くて、車を運転する事もできなかった。
対向車の運転手は持病は無いらしいが、突然意識を失ったらしい。
そして他にも車はいたのに、なぜか、私だけを狙ったかのように突っ込んできたようだ。
それは偶然にしては出来すぎていて、おかしいと感じた私は、男の子に目をやった。すると男の子は私の膝の上で、楽しそうに足をばたつかせていて、手も叩いている。
私は呆然としながらも、その姿を視て、
———あぁ、またこの子がやったのか……、と項垂うなだれた。
ぶつかってきた運転手は、加害者ではなく、被害者だったのかも知れない。
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