事故物件
投稿者:きのこ (6)
天井にぶつかる度に明るい緑色の光が視えて、
———ここには結界でもあるのかな、と今にも途切れそうな意識の中で思ったのを覚えている。
そして、なぜそれが夢ではないと思ったのかというと、天井から自分を眺ながめていると、田舎なのでムカデが這はってきているのが見えた。
噛まれたくないので、私は慌てて身体に戻り、ムカデから逃げたので、夢ではないと信じたのだ。
ちなみに熱が高かったので、病院で何度も精密検査をされたが、原因不明だった。
点滴や注射で、両腕が針の穴だらけになったのに、何も分からないなんて———、と余計にぐったりとしたが、男の子は楽しそうに、私の上で飛び跳ねている。
結局、男の子に取り憑かれている間はずっと体調が悪く、そのまま呪い殺されるんじゃないか、と恐怖を感じた。
別の時に取り憑かれた時には、霊感が異常に強くなった。
私は常に人ならざるものが視える訳ではないのに、取り憑かれた途端にはっきりと視えるようになり、向こうからも、私がよく視えるようになったのが分かった。
周りにいる人ならざるもの達が、やたらと私に興味を持ち、寄ってくるようになったからだ。
知らない女の人がフラフラと歩きながら、ずっと付いてくる。
突然ちぎれた腕だけが現れて、足を掴まれ、離れない。
いつもは霊体の顔は視えないのにしっかりと視えていて、机の前に立った男性が、疎うとましそうな目でじっと私を見つめてくる。
授業中は逃げる事もできないので、冷や汗をかきながら、ひたすら耐えるしかなかった。
たとえ何もして来なくても、恐ろしいものが目に入るのは苦痛でしかない。
私はテレビで見るような、血だらけの霊は視たことはないが、部分的に崩れていたり、無いものはよく視る。
普段は霊体の顔がよく視えないので、それ程恐ろしくはないが、男の子に取り憑かれて霊感が強くなると、生きている人間と変わりない姿が崩れたり、部分的に無くなったりする事になる。
それが身体の方ならまだいいが、ずっと付き纏まとってきていたのは、
片側の顔が倍くらいに膨れていて、そちら側の目は外側を向いている女性と、
目の前でじっと見つめてくるのは、目以外がほとんど崩れてしまっている男性だ。
それは決して気持ちのいいものでは無く、怪異を見慣れていない人達がその光景を視たら、きっと正気を失ってしまう事だろう。
多少慣れている私でも、思わず目を瞑つむりたくなる。
取り憑かれている最中は、逃げ惑う私が面白いのか、常に男の子の笑い声が聞こえていた———。
私が成長して高校生になると、災いも力を増していった。
焼肉屋のバイトをしていた時には、キッチンの高い所に置いてあった、30枚くらい重なった大皿が、まとめて頭の上に落ちてきたことがある。
何かの気配に気付いてすぐに避けたが、割れた皿の破片が飛んできて、左腕の肘の辺りに刺さった。半袖だったので指4本分くらい切れてしまい、押さえた指の隙間からは、だらだらと血が流れた。
見ていた人達から悲鳴が上がったのは、言うまでもない。
ユニフォームは血だらけになったが、もし霊感が無くて気配に気付かなければ、そんなものでは済まなかった気がする。
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