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ヒトコワ

とくのしんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

兼平さんはタクシーを使わない。
長編 2024/10/01 10:46 2,280view
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いきなりTが大声で叫び出した。そしてゼロをカウントした瞬間、タクシーは急発進した。これは今でもはっきりと覚えている。信号がまだ赤だった。にも関わらず急発進させたんだ。座席に身体を押し付けられる程にね。それで横から来たトラックに突っ込む瞬間までは憶えているんだが・・・次にはっきりと記憶があるのは病院のベッドの上だったんだよ」

意識不明の状態が1週間程続き、奇跡的に一命を取り留めたという兼平さん。しかし、片足に麻痺が残ってしまった。一方のTは即死だったそうだ。

「そんなことがあったんですか。それじゃ、タクシーには乗ろうとは思わなくなりますよね・・・」
「いや、その事故もそうなんだけど・・・」
一呼吸置いて兼平さんは重い口を開いた。

「Tが死んだことで事件は迷宮入りしかけていた。私はTが死んだとはいえ、事件の真相を追うことは諦めていなかった。これでもジャーナリストの端くれだからさ。それで退院後、改めてその地を訪れたんだよ。そうして取材を続ける中で、タクシーを使う機会があってね。
Tと同じタクシー会社の人間だったんで、色々と事件について探りを入れてみたんだ。そのときのタクシーの運転手がまたお喋りなヤツでさ、色々と喋ってくれたんだよ。ベラベラとしゃべり続けるそいつが急に妙なことを言いだしてね・・・。

“お客さん、記者の人でしょ?事件のことをいつまでも追っていると、次は本当に死にますよ”

って。私がどういうことか尋ねると、運転手は同じ言葉を繰り返す。
そうして信号で止まったときだった。私がルームミラーに目をやると、運転手と不意に目があった。その瞬間、

ゴー!
ヨン!
サン!
ニー!
イチ!

と叫び出した。その瞬間、あの事故がフラッシュバックとなって思い出された。恐怖で身体が硬直して動かなくなっていたよ。本当に一瞬だったけど、一気に脂汗がぶわぁっと滲んでさ・・・そしたらカウントを終えた運転手が振り返って

“ギャハハハハハハハハハ!

と笑い出してさ。そのときのそいつの目があまりに恐ろしくてね・・・。なんていうかこの世の者じゃないっていうか、同じ人間とは思えない感じすらしたのを憶えている。本当に狂気に満ちた、そんな表情だった。あまりに恐ろしかったんで急いで金払ってタクシーから降りたんだ。その間もずっと笑っていてさ。本当に恐ろしかった。降り際にそいつが言ったんだ。

「タクシーには気をつけてくださいね」

あとでわかったことだが、Tはキャンプ場近くの宗教団体の信者だった。さらにそこのタクシー会社の社長っていうのも信者だったことがわかった。でも、私が調べられたのはそこまで。それ以上は、同僚にも止められたよ。もう関わらない方がいいって。
そんなことがあって、私はタクシーに乗らなく・・・いや乗れなくなった」

「そんな恐ろしい体験をされたんですね・・・」
「そ、だからタクシーには気を付けた方がいい。他人に命を預けるってことがどれほど危険なことか、私は身をもって知っているから」

その体験談を聞いて以降、私もタクシーを使わなくなった。そんな話です。

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