聖なる言い訳
投稿者:セイスケくん (30)
これは、ある古い文献を読み解いた人物から聞いた話だ。
その人物は長年、宗教的な文献を「現実的な観点」から解釈することに没頭していた。そして、ある日、彼が熱心に読み解いていたのは、新約聖書に描かれたマリアとヨセフの物語。一般には、神聖で超自然的な出来事として語られるこの物語だが、彼はそれをもっと人間的な視点から見ようとした。
彼によれば、マリアには父親が決めた許嫁がいたという。表向きには、誰もが知る形ではなかったが、その存在は確かにあったらしい。しかし、マリアの心はその許嫁には向かず、むしろヨセフに惹かれていた。父親の選んだ相手ではなく、自分の心が求める者へと向かう、若きマリアの内なる葛藤がそこにはあったのだ。
そして、問題が起こったのは、ある日、マリアが身重になったときだ。ヨセフは、当然ながら二人の間に婚前交渉があったと疑った。だが、その子が本当に自分の子であるのか、疑念が頭をよぎったのだ。「あの許嫁の子ではないか? もしかすると、マリアは自分に隠れて他の男と関係を持ったのではないか?」と、ヨセフは次第に疑いを深めていく。
その疑念は、ヨセフを狂わせるほどに強くなり、ついには離縁すら考えるようになったという。その時だった。ヨセフの前に、天使が現れたのだ。天使は告げた。「マリアは精霊によって身ごもったのだ。何も疑うことなく、彼女を妻として迎え入れよ」と。
そのお告げを受けたヨセフは、心の中に積もっていた疑いをようやく振り払うことができた。そして、彼はマリアを妻とし、子供が生まれるまで彼女に手を触れなかったと伝えられている。
しかし、この話を聞いた者たちは不気味な感覚を覚えたという。誰もが天使の言葉を信じたわけではなく、何かもっと別の理由がそこに潜んでいるのではないかと感じたからだ。特に、高貴な家系に生まれた女性が、世間の目を気にして「できちゃった婚」を隠そうとする言い訳に、天使のお告げを使ったのではないかと囁く者もいた。
それは、あまりにも巧妙に仕組まれた話だった。世間の目から逃れるために「精霊の子」という神聖な物語が作られたのではないか? 疑惑の影は、今なおその物語の背後に静かに漂い続けている。
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