【突撃！噂の心霊スポット】

だが近くから見ると、かなり老朽化が進んでいるようだ。

村井は車を旅館前の駐車スペースに停車した。

車から降りた二人の鼻腔を潮の香りがかすめていく。

「なかなかに立派な建物じゃないか？眺めも良さそうだし」

入口前に立つ小暮が眩しげに見上げ、感心しながら呟く。

「でも、よく見ると、あちこちガタがきているようだな」

そう言って村井が苦笑した。

それから小暮がiPhoneを片手に少し離れたところから旅館の全容を撮影していると、木枠の硝子戸ががらがらと開き中から作務衣姿で髪を茶髪に染めた中年の男性が出てくると、

「ご予約の村井様小暮様でしょーか～？」と笑顔で声をかけてくる。
どこか軽薄そうな感じだ。

二人が頷くと男性は荷物を奪い取るようにしてから「ささ、どうぞどうぞ」と玄関口へと歩きだした。

玄関上がって左手のカウンター前には立て看板が置かれており、そこには「ＳＮＳで話題沸騰！幽霊の出る旅館」と書かれていた。

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噂の「菊の間」は広い玄関を上がり、左手に伸びる黒光りする廊下突き当たりにあった。

部屋は８帖ほどの畳の間で、室中央に置かれた年季の入った座卓に二人は向かい合って胡座をかく。

奥の開け放たれた障子向こうの大きめの窓からは、青い海が広がっていた。

作務衣の男性が二人の前にお茶を置いた後、

「当館の主で藤野と申します。
本日は遠いところからわざわざお越しいただき、ありがとうございます」と深々と礼をした。

村井が恐縮しながら口を開く。