代議士と黒い救急車
投稿者:とくのしん (58)
「そうですか」
力なく返答する父に代議士が言葉を続ける。
「そう気落ちするな。何も心配することはない。お前は良い仕事をした、それだけだ」
「いや、私のせいで彼は死んでいるかもしれないんですよ」
「だからいい仕事をしたと言っただろう?」
「人を死なせてしまうことのどこがいい仕事なのですか?」
「それが政治家の秘書の仕事というものだ」
代議士の言葉を到底理解できるわけもなく、また受け入れることもできないことから、父は責任を取るため秘書を辞めて自首することを告げた。
代議士は激怒するものと思っていたが、意外にも態度を変えることなくこう言ったという。
「あの記者は最初からいなかった。そういうことになる。だから警察に行っても時間の無駄だぞ」
しかし、父は自責の念に駆られその足で警察へと赴いた。事故を起こしたことを伝えると、交通安全課の担当者が事故の詳細を尋ねてきた。父は広域地図を見ながら事故を起こした詳細な時間、状況を事細かに説明した。警察官は事務的に淡々と調書を取っていくなかで、父の一言にペンを止めた。
「黒い救急車のような車に被害者が乗せられたのですが」
その一言を耳にした担当者は、父に尋ねた。
「もしかして、●●先生の秘書の方ですか?」
代議士に迷惑をかけまいと名刺すら出していなかったが、唐突に質問されたことで父は思わず「はい」と答えた。すると
「少々お待ちください」
と席を立ち、奥にいる上司に耳打ちを始めた。その上司も急いで席を立つとどこかへと走っていく。しばらくすると見るからに偉そうな人間が姿を現した。
「いや~、こんなところにご足労頂きまして申し訳ない!●●先生はお元気ですか?」
上機嫌に現れた男は警察署長だったという。父が事故について質問しようとしたところ
「昨日、事故はなかったと報告を受けています。先生にもそのようにお伝えください」
と笑顔で質問を遮った。その表情から全てを察した父は黙って警察署を後にした。
署から出るとパトカーに乗せられ代議士のもとへと送り届けられた。
代議士は半ば呆然とした父に向かってこう言葉を掛けてきた。
「警察に行くのは時間の無駄だと言っただろう。まぁ何にせよこれでわかったな?お前ももうこっち側の人間だということが」
そう言い放ったときの代議士の表情を父は一生忘れることができなかったという。その不易に浮かべた悪意に満ちた表情を見たとき、代議士から逃げられないことを理解した。
父はその言葉通り代議士が引退するまでの約30年間、代議士に尽くした。その間も様々なことがあったという。それでもあの一件以来、父は全てを代議士に捧げてきた。
代議士が引退することになり自身の息子に地盤を引き継がせる際に、秘書として息子を世話してやってくれと頼まれたが、父は年齢と以下の理由で断ったという。
「私が生涯をかけて尽くすのは先生一人だけですよ」
と。
その返答に代議士は豪快に笑ったあと
黒い救急車って殺医ドクター蘭丸のやつか!
でも悪人は助けないだろうから別の組織かもしれない(笑)
3億とか5億とか書いちゃえよ!
取り込まれる
いや、既に取り込まれている
自衛隊の救急車には本当に黒い(厳密には極めて濃い緑の)車体のものがあるね。