代議士と黒い救急車
投稿者:とくのしん (58)
代議士のその一言に我に返った父は、急いで車を発信させた。父が黙って運転していると代議士が再び
「あんなどこの馬の骨ともわからんヤツを相手にするな」
その一言に父は黙って頷いた。“秘書が自殺している”という言葉が妙に引っかかっていたからだ。ハンドルを握る手にじんわりと汗が滲む。秘書は退職していたと聞いていたが、自殺?△△団体といえば悪名高い政治団体で、建設会社に勤めていたとき何度か耳にしていたことがあった。所謂同和問題に直結する団体で、それを盾に警察も迂闊には手を出せないという噂があった。
「先生、背後から先程の記者と思われる男がバイクでついてきているようです」
父はドアミラー越しに一台のバイクがぴったりとついてくることを報告した。
「くだらん、とっとと撒け」
代議士の指示通り、父は人気のない道を選びスピードを上げていった。
車は廃れた工場地帯を走行していた。廃工場も多くこんな時間ではまず人には出くわさない。普段は滅多に使うことがないが、ここを抜けると地元へは早い。ここで一気に撒いてしまおうと画策した父だったが、同時に運転をしながらこの代議士の持つ闇深さについて色々と勘案していた。秘書が自殺していたという話、談合の首謀者、△△団体との繋がり・・・いつか自分も消される立場になるのでは・・・そんなことを思っていたときだった。
不意に追い越しをかけてきたバイクに気づかずついアクセルを踏み込んでしまった。
気づいたときには遅かった。前に出たバイクに思い切り追突すると、バイクもろとも男性が派手に転がっていく様が見えた。止まった車のヘッドライトに照らされた運転手はぴくりとも動かない。その衝撃に気づいたのか、後部座席で寝ていた代議士が目を覚ました。
「どうかしたのか」
「先生・・・申し訳ありません。事故を起こしてしまいました」
父はそう代議士に答え、すぐに車を降りるとバイクの運転手に近寄った。バイクはカラカラと音を立てながら車輪だけが回っている。それから数m離れたところに男性は倒れていた。ヘルメットは飛ばされたのか被っていない。男性の顔を恐る恐る覗き込むと、それは例の記者の男性であった。頭部からは出血しているのが見て取れたが、声をかけても返事はない。急ぎ代議士のもとへ戻り状況を説明した。
「例の男か。都合がいい」
代議士は後部座席に座ったまま、ひじ掛けから何かを取り外した。中からは黒い箱が出てきた。そしてその箱を開けると受話器のようなものが出てきた。この時代、携帯電話の普及はなかったため父はそれがなんだかわからなかったという。
「もしもし私だ。・・・そう秘書が事故を起こしてな。例の一台頼みたい・・・場所?場所は・・・」
父の目を見ながら場所はどこかと問う代議士に、父はおおまかな場所を伝えた。それを代議士は電話口の何物かに伝え通話を終えた。
「幸い人気のない場所で良かったな」
「しかし・・・先生。あの男は」
「心配いらん。少し待っていろ」
そう言うと煙草に火を点けた。
電話から15分くらいだろうか、ルームミラー越しに車のヘッドライトの光が見えた。それと車体の上部に赤色灯が回る光も見えたことから、代議士が救急車を呼んだのだと父は思ったそうだ。
しかし、サイレンが鳴っていない。この緊急事態になぜ?と思ったが、もしかすると代議士のスキャンダルに繋がりかねないとして、敢えて鳴らさないのかと考えた。
その救急車が近付いてきたとき父はその目を疑った。到着した救急車の色が黒なのだ。真っ黒な車体に不気味に赤色灯だけが光っている。到着した救急車のようなものを眺めていると、全身白ずくめの衣装をきた数人が降りてきた。例えるならどこかの研究機関の職員のような恰好だったという。
「後は頼んだぞ」
代議士は慣れた感じでその者たちに指示を出した。その者たちは無言のまま頷いて記者風の男に近づいていった。
「もう行っていいぞ」
代議士の指示を受けて父は車を発信させた。ドアミラー越しに黒い救急車を見ながら・・・
しばらく無言だった父に代議士が声をかけた。
「最近、私の周りを嗅ぎまわる男がいたのだがな。恐らくあいつだろう。〇〇新聞の記者だという話だ」
黒い救急車って殺医ドクター蘭丸のやつか!
でも悪人は助けないだろうから別の組織かもしれない(笑)
3億とか5億とか書いちゃえよ!
取り込まれる
いや、既に取り込まれている
自衛隊の救急車には本当に黒い(厳密には極めて濃い緑の)車体のものがあるね。