あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
「――あ、いや。色々思い出してしまって。
ほんとに懐かしいなあ。毎年来るたびに、このノートに続きを書いてましたからねえ。
後ろの方に行くほど、少しずつ絵も字も上手くなっていってるなあ」
「そうだねえ。毎年来てたのは――そう、小学校の3年生くらいまでだっけかねえ?
その後は、洋ちゃんもサッカー部に入って忙しくなったし、毎年ってわけにはいかなくなったからねえ」
絵日記の更新も、小学3年の時期を最後に止まっている。
「これ、一晩だけお借りしてもいいですか?」
今夜寝るときにでも、一度じっくり読んでみたい。
「いやだよお。貸すもなにも、それは洋ちゃんのものじゃないの。邪魔じゃなければ持っていって?
でも、処分しちゃうようだったら、婆ちゃんの仏壇に供えとくから、置いていってね」
そう云って、伯母はまた笑った。
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今回の滞在の目的は、祖母の家への挨拶だけだ。
ちょうど仕事の区切りもよかったため、夏季休暇を取っている。
伯母の家族も歓待してくれているし、しばらくのんびりしてもよい身分なのだが――。
いかんせん、この田舎ではすることがない。
家でゴロゴロしているわけにもいかず、朝食をいただいた後、私はブラブラと散歩に出ることにした。
午前中だというのに、日差しは射すように強い。
ただ都会と違って、山を吹き抜けてくる風は清涼で、気持ちがよかった。
記憶をたどりながら、田舎道を行く。
20分ほど歩いたところで、山裾に立つ鳥居が見えた。
鳥居からは階段が伸びており、山の中腹にある神社まで続いているのだ。
神社では毎年、夜祭が行われる。
鳥居の脇に、一軒の古い商店があった。
私は思わず驚きの声を上げた。
「うわあ、駄菓子屋の『すみれ』じゃないか。まだやってたんだなあ」
この店は、私が子供の頃、この町に来る度通った駄菓子屋だった。
昔から立て付けの悪かったガラスの扉は、今、半分だけ開いており、営業中であることを伝えていた。
私は、誘われるように薄暗い店内へと足を踏み入れた。
【吉良吉影!雪女に会う~少年時代 特別編~①】
何となくこれを思ったw