お客さん、幽霊とか信じますか?
投稿者:ねこじろう (147)
私は最近途中入社した新人ドライバーだったもんで知らなかったんですが、あの教会のことは当時地元ではかなり有名な話だったみたいでね。
半年前の6月のことだったみたいです。
その教会で若い男女が式を挙げていたそうなんです。
ただ男の方が最低の野郎だったようで既に長く交際していた女がいたというのに、しれっと別の女と式を挙げたようで、
式を終えてから二人が教会入口階段の途中に並び立ち、軽やかな鐘の中、皆の祝福を受けていた時でした。
突然一人の純白のウェディングドレス姿の女が現れ二人の背後に立つと笑顔で「おめでとう」と大声で叫び、いきなりペットボトルを二人の頭上でひっくり返すと中に入った灯油をドボドボかけた後、すぐさまライターの火を放り投げたんです。
慌ててスタッフが止めに入ろうとした時にはもう遅かったみたいで、二人はあっという間に炎に包まれ火だるまになりました。
懸命に消し止めようとするスタッフや参列者たちをよそに、女は二人が愛を誓った室内奥の壇上まで走ると、そこに仁王立ちになりキリスト像を背にしてさも嬉しそうに笑いながらもう1本のペットボトルを頭上に掲げ灯油を全て被ると、自らにライターの火を放ち火だるまになったんです。
そして狂ったように笑いながら教会内を走り回りだしたものだから、やがて火はカーテンに引火し室内はあっという間に炎に包まれました。
それから消防車が来てようやく鎮火したということなのですが、救急搬送された新郎新婦と女は全員死亡。
建物は半分が焼け落ち、現場は酷い状態だったようなんです」
運転手はここまで喋ると、一旦口をつぐむ。
一時車内は静寂に包まれた。
それからしばらくすると、彼はまた訥々と話し出した。
「確かに女のやったことは鬼畜の諸行だとは思います。
ですが一方で私ね、
かつて愛する恋人に裏切られ自らに火を放ち命を絶った可愛そうな娘のことを思い出してしまいましてね、この話を聞いた時つい女のことを同情してしまったんですよ」
運転手の話を黙って聞いていた三島が恐る恐る口を開く。
「ということは、そのタクシーに乗った女というのは?」
「分かりません。
あの事件を起こした女の幽霊だったかもしれないし、そうじゃなかったら、もしかしたら、、、」
運転手はそこまで言うと黙り込んだ。
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ふっと一息ついた三島は傍らの車窓に視線を移す。
いつの間にか雨が降ってきたみたいで、窓ガラスには無数の雨粒が付着していた。
これに似たタクシーの話あったよね。
コメントありがとうございます。
─ねこじろう