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それからあの家のことがどうしても気になった玲子は休みの日、昭和の頃から同じ住宅街に住んでいる自治会長の住む家を訪ねてみた。
彼なら当時のことを何か知っているのでは?と思ったからだ。
奥の仏間に通され座卓の前に正座した彼女は、正面に座る白髪で着物姿の男性にあの家のことを尋ねてみる。
男性は初めの内何故かどことなく厭な顔をして黙っていたのだが、やがて訥々と語りだした。
「ええ憶えていますよ、あの家のことは。
確かあれは昭和もそろそろ終わる頃だったと思います。
あの平屋建ての家には40くらいの女性の方と、その息子さんと思われる方が住まわれてたんです。
息子さんは先天的に筋肉が萎縮していくという難病を抱えていて、まともに学校にも行かせてもらえず母親が自宅で療養看護されてたようです。
女性の方は「小川さん」というのが苗字だったのですが、ご近所さんは彼女のことを陰で「お多福おばちゃん」と呼んでいたようです。
それは彼女がまるで「おかめ」のお面のような見た目をしていたからでした。
ぽっちゃりした小柄な体躯にいつも割烹着を着てましたな。
いつも笑顔を絶やさない朗らかな人でね、朝方になるといつも門の前を箒ではわいていて、通り過ぎる住人に対しても笑顔で挨拶をしてましたよ。
そんな愛想の良い「お多福おばちゃん」だったんですがね、住民たちの中には、その奇異な見た目から忌み嫌う者もいたようです。
そしてちょうど元号が平成になった頃なんですけどね、深夜におばちゃんの家が火事になりましてね。
それは酷い火事だったようで翌朝にようやく鎮火したんですが、残念ながら焼け跡からおばちゃんと息子さんの寄り添うようにして横たわる遺体が見つかったんです。
出火の原因はどうやら放火だったみたいなんですが結局犯人は捕まらなくて、今はご覧の通りなんですわ」
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それから一カ月が経過した頃のことだった。
玲子は病院から連絡を受けて満男の主治医と面談するように言われる。
恐らく退院の話だろうと病院の応接室で待っていた彼女だったのだが、医師の口から出た言葉は耳を疑うような内容だった。
「息子さんは我々の適切な栄養補給と投薬により一応は回復されました。確かに回復はされたのですが実は新たな、、、その、、、問題が発生しましてね」
























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