そこは雑草が伸び放題で敷地の真ん中辺りにはあちこちに炭化した柱やぼろぼろの家具の残骸があるだけ。
そんなことより彼女が驚いたのは満男の1メートルほど前をゆっくり前に移動している、ぼんやりとした人型の黒い影。
満男はその影の後ろに従いながら、どんどん雑草を踏み進み玄関のあったであろう辺りで靴を脱ぐ。
そして素足で真っすぐ歩き進むと、かろうじて原形を留めた大きめの木製テーブルの前にある椅子に腰かけた。
彼の正面には黒い影らしきものが座っていて、その隣にも同じようなのが座っている。
それから満男は皿に乗せられた何かをスプーンでパクパクと食べていた。
─いったい何を食べてるの?
玲子は目を凝らす。
そしてそれが何か分かった時、思わずアッと小さく声を出した。
それは泥の塊、、、
満男はそれをいかにもおいしそうに口に運んでいた。
堪らず彼女は門を開き敷地に入り小走りで息子の背後まで駆け寄る。
そしてその背中に向かって名前を呼んでみた。
だが彼は全く動じることなく相変わらずもくもくとスプーンを口に運んでいる。
その時には何故か、あの黒い影はいなくなっていた。
堪りかねた玲子は満男の傍らまで歩くと、その手から無理やりスプーンを奪い取る。
そして見上げた息子の顔を見た途端、彼女の背筋に冷たいものが走った。
その顔はげっそりと痩せこけ肌は完全に血色を失っており両目は洞穴のようだ。
満男は「返せよ返せよ」と叫びながらスプーンを取り返そうと玲子の腕を掴もうとしてくる。
それで思わず彼女は息子の頬を平手打ちした。
彼は意識を失いその場にがっくり倒れこむ。
玲子はすぐに携帯で救急車を呼んだ。
それから満男は近くの病院に搬送され検査と治療を受ける。
結局彼は極度の栄養失調と食中毒という診断を受け、一カ月の入院ということになった。























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