マンホール人になった友達

『そうさ。あとはお前みたいに、直接マンホール人から教えてもらったラッキーな奴くらい、ってことだな』

Aは得意げに言った。

「じゃあ、せっかくだからもっと教えてくれよ。
地下世界って、どんな所なんだ？」

『さっきも言ったけど、地上から何百メートルも下にある。
地下鉄が走ってる場所なんかより、ずっと深いところだ。
そこには巨大な空間がある。天井までの高さは、東京ドームくらいあるかなあ。
そんな空間が、この町よりも――いや、日本よりも、ずっとずっと広く、広がってるんだ』

「でも、地下って真っ暗なんだろう？　どうしてわかるんだ？」

『そりゃ俺だって、初めは暗くて何も見えなかったさ。

ただ、不思議なんだけど、すぐに身体が馴染んだんだ。今じゃ昼間と同じくらい、はっきり見えるぜ？
目が見えるようになって、天井をよく調べたら、ポツポツって小さな穴が空いてるのに気が付いた。それが、俺が落ちてきた、地上に繋がってる穴なんだな、ってわかったんだ。
でも、他の色々なことは、マンホール人の仲間に教えてもらったんだ。
優しくて、とっても頭の良い奴らだぜ？　たぶん、地上人よりもずっと進んでる。
地下世界の地理や成り立ち。地上の奴らとのうまい付き合い方。これから先の未来に、この星で起きることだって、なんだって知ってるんだ！』

興奮したAの声だけが、マンホールの隙間からの響いてくる。
なんでコイツは、顔を出さないんだろう？

『それに、聞いた話だと、マンホール人は歳をとらないんだってさ！　長老みたいな奴は、もう何百年も生きてるって言ってた！』

「何百年も前だと、マンホールはなかったんじゃないのかな？」

『――ああ？』

低い、恐い声。
「ごめん」と、僕はすぐに謝った。

『――とにかく、地下世界はいいところさ！　マンホール人も皆いい人たちだしな。
Bも来いよ！　学校もないし、勉強もしなくたっていいんだぜ？　ずっと遊んでたって怒られない！
俺、もっと早く、マンホールに落ちてればよかったと思うぜ？』

そう。Aはマンホールに落ちたんだ。
マンホールに落ちて、Aは。
思い出した。
忘れていた疑問。違和感。

「でもお前、マンホールに落ちて死んだろ……？」