不意に、マンホールは沈黙した。
僕はもう一度繰り返す。
「A……お前はマンホールに落ちて死んだ、」
ドガンッ!
突然、眼の前で何かが爆発した――とっさに、僕はそう思った。
だが正確には、足元にあったはずのマンホールの蓋が天高く弾け飛んだ、その音だった。
物凄い勢いでマンホールから飛び出した、Aの頭に弾かれて、だ。
『アアアアアアアアアアアア!』
狂ったように叫ぶAの顔は、僕の頭の5メートル上空にあった。
その目は白く濁って膜が張り、深海魚のようだった。
そして、その胴体は、蛇のように長く長く長く伸びて、マンホールの中へと繋がっていた。
『痛いっ! 痛いって! 止めろっ! 齧らないでくれよ!
今、コイツを連れてくから! 地下に連れてくから! だから齧らないでくれよ!
なぁB、俺たち親友だろ? 一緒に来てくれよ!
地下の奴ら、地上の奴を連れてこいって言うんだ! 連れて来ないと、酷い目に合わせるって言うんだ!
俺の身体、変わっちまった! 地下に落ちて、暗闇でも目が見えるようになったら、いつの間にかすごく長くなってたんだ! 俺の足、まだ地下にある! 何百メートルも下の、地下にあるんだよっ!
アイツら、地下で俺の足を喰ってるんだ! ガリガリ、ガリガリ、齧ってるんだ!
いくら喰われても、すぐに肉が張って、戻っちゃうんだ! 死ねないんだ! 助けてくれよ! 痛いのはもう嫌なんだよ!
なぁ頼むよ! 俺と一緒に地下に来てくれよ! ひとりじゃ嫌なら、お前が好きな隣のクラスのC子も連れて来いよ!
そうだ、3人なら齧られるのも三分の一だ! それがいい、後ですぐ連れて来てやるからさ!
おい、なんで逃げるんだよ? ふざけんなよ? なんで俺だけなんだよ? なんで俺だけこんな目にあうんだよ?
ふざけんなよ、許さねぇからな? 連れてくからな?
絶対、お前を――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
※
僕は生まれて初めて、自分の叫び声で目を覚ました。
パジャマは、汗でぐちゃぐちゃになっていた。
※
※
僕が小学6年の頃、C子がマンホールに落ちて死んだ。
大人になった今でも、僕はマンホールが恐い。
C子は、マンホールに連れて行かれちゃったのですね((゚□゚;))
4月度で一番おもしろかったです。自分の中ではグランプリかな。
最初らへんfoll outの世界に似てる
いい世界感や