「あの、、絶対に平田さんの生活圏に踏み込むことはしないと言われてますので」
「…………」
「よろしいでしょうか?」
「…………」
返事はないまま襖はすっと閉まった。
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二人が家を出た時、日はすっかり暮れていた。
事務所への帰りの車の中、助手席にすわるRinRinさんが安河内の横顔を見ながら尋ねる。
「あの平田という人、、、一日中あそこに座っているのかしら?」
ハンドルを握る安河内は強張った表情でただ前方を凝視していた。
「ねえ、あの人さっき膝の上に包丁を置いてたみたいなんだけど、大丈夫なの?」
RinRinさんのさらなる問いかけに対しても安河内はしばらく無言を通していたが、やがて一つため息をつくと訥々と喋りだした。
「実はあの方3年前あの家を新築で購入されて若い奥様と二人で暮らしていたみたいなんです。
初めのうちは二人仲睦まじく暮らしていたようなんですが、2年前に突然奥様が近所のアパートに住む若い男性と一緒に家を出て行ってしまい、それからはあの方会社も辞めて一年くらい奥様を血眼で探していたそうなんですが結局消息が掴めず、、それからはずっと一日中ああやって閉じこもっているみたいなんです。ただ今年の初めくらいに貯えも減ってきて、それでもいずれ奥様が帰ってくるのでは?とむやみに外に出ていくこともできなくて、しょうがないから一階だけを誰かに貸して生活費の足しにでもと私の方に連絡をしてきたんです」
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少々不安はあったみたいだが最終的にRinRinさんはあの物件の一階を借りることに決める。
























生きている人間が怖い。
おっしゃる通りですね
─ねこじろう