安河内の事務所の机で契約書に最後のハンコを押したRinRinさんは少し強張った表情で語りだした。
「お兄さん私ね、さっきあの家に連れて行ってもらって初めて二階にある平田さんのいる部屋に入った時なんだけど、隅っこに女の人が立っていたのを見たの」
「女の人?」
正面に座る安河内が怪訝な顔でRinRinを見る。
彼は続ける。
「うん、アッと思ってもう一度見た時にはいなかったんだけどね。肩までくらいの黒髪の色白でスラっとした人でね、凄い怖い顔してこっちを睨んでた。
見間違いかなにかだったとは思うのだけど、もしやあれがお化けというやつ?、、、
だとしたら私生まれて初めて見たかも」
そう言うとしばらくの間RinRinさんはじっと安河内の顔を見ていたが、やがて思い直したように笑顔になると、
「よ~し、明日から新しい仕事場でがんばるぞ~」と言って元気よく立ち上がった。
※※※※※※※※※※
それから一カ月が経過した頃、気になっていた安河内はRinRinさんに電話をしてみる。
電話に出た彼はいつものあのテンションで喋り始めた。
「そうねえ、今のところは特に問題はないわね。
仕事も順調に進んでいるしね。
ただ少しだけ気になることといったら、
夜中二階から足音が聞こえてくることと、
たまに夕方平田さんがぶつぶつ言いながら家の周りをぐるぐる何周も回ってることくらいかな。
あ、そうそう、そういえばこの間ねえ買い物でも出掛けようと思って玄関で靴履いてるとさあ、何か背中がぞくりとしたのよ。それで振り返ってみると平田さんが階段の上り口に腰掛けてじっとしてたのよ。
しかも膝の上にはまた包丁乗せててね、、
あれにはさすがにびっくりしたわ、フフフ、、」























生きている人間が怖い。
おっしゃる通りですね
─ねこじろう