儀式の呪縛
投稿者:まろ (12)
「そうだよ。」
急かしているつもりはなかったのですが私もいたって真面目にこう返しました。正直、早く検証したいという気持ちの方が勝っていたのを覚えています。
「1人だけいる。俺のじいちゃん。数年前に病気で亡くなった。じいちゃんの古いメガネなら確かこの家にあったと思うからそれで確かめてみるか?」
「お前の肉親を実験台にしてもいいのかよ?」
と、Tが眉を顰めるも、
「じいちゃんには聞きたいことが色々とあるから、やってみる価値はあるかもしれない。何もなかったらそれまでだ。それに、じいちゃんは誰にでも優しかったし呼び出しても怒らないと思う。だってじいちゃん、オレオレ詐欺にあったことあるんだけど、詐欺と分かっていながらお金を援助したんだぜ?信じられないだろ。まぁじいちゃんを呼び出してみよう。今の客室がじいちゃんの部屋だから、そこにメガネがあると思う。探してくる。」
そう言い残し、Mはメガネを探しに行ってしまいました。しかし、M1人で行かせるのは正直不安だったため、3人でMの後を追いました。途中Mは、仏間からろうそく3本とライターを取り、客室へ向かいました。全員で客室にあると思われるMの祖父の遺品を探すことになり、その客室は倉庫と比べたらとても明るく、テレビやラジオなども付いており倉庫の雰囲気とは無縁な印象を感じました。Mが何個かの引き出しを開けたところ、メガネはあっさりと見つかりました。
「準備は全て完了した。怖いから照明をつけてテレビも流しながらこの儀式をやろうと思う。」
と、Mが臨場感を全てぶち壊しにするようなことを言い出しました。しかし、全員怖かったのでしょう。すんなりとMに賛成しました。その時、テレビではお笑い番組をやっていたため、それを流しながらテーブルの上にメガネを置き、ろうそく3本を置き全ての準備が整いました。
「さっきの手帳には照明を消してやれだのテレビを消せだのそういったことは書いてないからな。とっとと終わらせて何もないってこと証明してスマブラの続きでもやろうや。」
とんだ屁理屈をMが言うので、全員そこで張り詰めていた気が抜けました。そして冗談を飛ばし合い、Mが口に笑みをうかばせながらろうそく3本にライターで火をつけ
「○○(Mの祖父の名前)、俺のじいちゃん、おいでください。いらっしゃったらろうそくの火を3本消してください。」
と、手帳に書かれていた言葉を唱えた。ここで私たちは全員沈黙し、テレビのお笑い番組だけしか聞こえてこなくなりました。
何も起きない。Mは再び、
「○○(Mの祖父の名前)、俺のじいちゃん、おいでください。いらっしゃったらろうそくの火を3本消してください。」
と、唱えました。
私たちは誰1人動くことなくろうそくをじっと眺め続けました。しかし、ろうそくの火はぴくりとも動きません。時間が経つにつれ、部屋の空気がますます重たくなりました。お笑い番組の音も全く耳に入ってきませんでした。Mの顔には焦りが浮かんでいましたが、最後の望みをかけて
「○○(Mの祖父の名前)、俺のじいちゃん、おいでください。いらっしゃったらろうそくの火を3本消してください。」
と再度唱えました。そしてしばらく待ちました。すると、突然部屋に異様な静けさが訪れました。
「あれ?誰かテレビ消した…?」
Aが呟きました。
「おい、そんなことしなくていいから。」
「お前だろ!」
「は?俺じゃねぇよ!」
全員顔が笑っています。何も起きないことをいいことに何か怖いことを起こそうとでも考えたのでしょう。しかし、
「いや、テレビのリモコンはソファの上に置いたはず…ここから誰も動けないんだから誰も触るわけがない…」
と、Mが下を向いて呟くと、全員がはっとして沈黙してしまいました。生暖かい空気をその瞬間感じたのを覚えています。
「じいちゃん…なの?」
とMは口を震わせながら虚空に向かって聞きました。
「え?じいちゃんなの?ほんと?え?」
Mは泣いていました。どうやら、本当にMの祖父を呼び出してしまったようです。私たちは今目の前で起こっている現象をただ見ていることしかできませんでした。誰も、何か言葉を発することはないまま、Mは言葉を続けます。
憑依されることで人格が変わるというお話は良く聞きますね
Mさんはどこに行ってしまったのでしょう。また、Mさんのご両親、ご実家は無事なのか、心配ですね