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ヒトコワ

綿貫 一さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

視線
長編 2024/02/07 23:26 5,462view

「いいわ、説明してあげる。はじめはそう、2週間くらい前のことよ。
昼間、イチカとふたり、家にいたの。私はベランダで、洗濯物を干していたわ。そしたら、リビングにいたイチカがやってきて、『ピンポンなったよ?』って言ったのよ」

イチカは最近、たどたどしくも、よく言葉を話すようになってきた。

「私は『ベランダにいて、インターホンが鳴ったのに気が付かなかったのかな?』と思って、イチカに『ありがとう』って言ってから、急いで玄関に向かったの。
それで、鍵をかけたままドアスコープ越しに外を覗いてみたの。誰が来たのかなって。
そうしたら――」

「そうしたら……?」

「――誰もいなかったの」

「なぁんだ」

「一応、ドアを開けて、顔を出して外を確認してみたけど、誰もいなかった。

『ああ、イチカの聞き違いだったのか』って思ったわ。
――そのときは」

「そのときは――?」

「次は、一週間くらい前のことだったわ。
夜、イチカと一緒に、お風呂に入っていた時よ。不意にあの子が耳を澄ませて、こう言ったの。
『ドンドンドン、ドア、なったよ?』って。
私、ドアチェーンを掛けたままにしてしまって、帰ってきたあなたが、鍵を開けても中に入れなくて、インターホンを押したのにも気が付かれなくて、それでドアをドンドン叩いているのかと思ったの」

「たまにあるね」

「『すごくたまに』あるくらいだと思うわ。
とにかく、急いでお風呂から出て、バスタオルを身体に巻いて、それからドアスコープを覗いたの。

そうしたら――」

「そうしたら……?」

「――やっぱり、誰もいなかったの」

「なぁんだ」

僕は苦笑した。

「そりゃ、マンションなんだから、隣近所から色々な音がするさ。それをイチカが、うちに誰か来たみたいだって、勘違いしただけじゃないか」

「そうは言うけど、日中、イチカとずっとふたりきりでいる私にしてみたら、あの子が言うことは、とても気になるのよ?
それに私、ドアスコープって何か苦手なの。あの歪んだ視界。その中に、誰かが立っていても、いなくても、なぜだか妙にドキドキしてしまう。
いつか、何か見てはいけないものを見てしまいそうで……。例えば、そう、ドアスコープの向こう側から、逆にこちら側を覗く『何か』とか……」

「気にしすぎだよ。それに、ドアスコープを覗くのが嫌なら、インターホンのモニターで外を確認すればいいじゃないか?」

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コメント(2)
  • 綿貫です。
    それでは、こんな噺を。

    2024/02/07/23:27
  • 最後の一行、、おしい

    2024/03/19/17:24

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