「いいわ、説明してあげる。はじめはそう、2週間くらい前のことよ。
昼間、イチカとふたり、家にいたの。私はベランダで、洗濯物を干していたわ。そしたら、リビングにいたイチカがやってきて、『ピンポンなったよ?』って言ったのよ」
イチカは最近、たどたどしくも、よく言葉を話すようになってきた。
「私は『ベランダにいて、インターホンが鳴ったのに気が付かなかったのかな?』と思って、イチカに『ありがとう』って言ってから、急いで玄関に向かったの。
それで、鍵をかけたままドアスコープ越しに外を覗いてみたの。誰が来たのかなって。
そうしたら――」
「そうしたら……?」
「――誰もいなかったの」
「なぁんだ」
「一応、ドアを開けて、顔を出して外を確認してみたけど、誰もいなかった。
『ああ、イチカの聞き違いだったのか』って思ったわ。
――そのときは」
「そのときは――?」
「次は、一週間くらい前のことだったわ。
夜、イチカと一緒に、お風呂に入っていた時よ。不意にあの子が耳を澄ませて、こう言ったの。
『ドンドンドン、ドア、なったよ?』って。
私、ドアチェーンを掛けたままにしてしまって、帰ってきたあなたが、鍵を開けても中に入れなくて、インターホンを押したのにも気が付かれなくて、それでドアをドンドン叩いているのかと思ったの」
「たまにあるね」
「『すごくたまに』あるくらいだと思うわ。
とにかく、急いでお風呂から出て、バスタオルを身体に巻いて、それからドアスコープを覗いたの。
そうしたら――」
「そうしたら……?」
「――やっぱり、誰もいなかったの」
「なぁんだ」
僕は苦笑した。
「そりゃ、マンションなんだから、隣近所から色々な音がするさ。それをイチカが、うちに誰か来たみたいだって、勘違いしただけじゃないか」
「そうは言うけど、日中、イチカとずっとふたりきりでいる私にしてみたら、あの子が言うことは、とても気になるのよ?
それに私、ドアスコープって何か苦手なの。あの歪んだ視界。その中に、誰かが立っていても、いなくても、なぜだか妙にドキドキしてしまう。
いつか、何か見てはいけないものを見てしまいそうで……。例えば、そう、ドアスコープの向こう側から、逆にこちら側を覗く『何か』とか……」
「気にしすぎだよ。それに、ドアスコープを覗くのが嫌なら、インターホンのモニターで外を確認すればいいじゃないか?」
綿貫です。
それでは、こんな噺を。
最後の一行、、おしい