終着点のあるバス
投稿者:ねこじろう (147)
「よければ、お話を聞かせていただけませんか?」
男はまた一瞬微笑むと再び口を開いた。
「前月、妻が亡くなりました。
四十三歳でした。
五年前に癌が見つかり、闘病生活を続けた末のことです。
私は六十です。
二週間前に、二十年お世話になった会社を辞めました。
子供もおらず、何の楽しみ、生きがいもありません。
それで会社最後の日。
ささやかな送別会をしていただいた後、家には帰らずホテルに泊まり、それから数日間ホテル暮らしを送った後、フラフラと彷徨うように街を抜けて、山あいを歩いていると、このバスが通りかかったので、なんとなく乗ったのです。」
─俺と似ている。
Aは思った。
「実は、私も……」
彼も、これまでの自分のことを語った。
「似た者同士というやつですね」
そう言って、男はニヤリと笑った。
※※※※※※※※※※
いつの間にかバスは山を抜けて、平坦な道を走っていた。
まだ外は暗闇に支配されている。
雨は相変わらずだ。
その時、
Aは何とはなしに、このバスにいる乗客は皆、同じような目的でこのバスに乗っているのではないかと思うようになってきた。
人生に疲れた者だけが乗るバス。
そして、終着点は……
※※※※※※※※※※
Aがふと前を見ると、いつの間にか車内最前列の辺りに女が立っているのに気付く。
首から下は影のように真っ黒で、白い細面の顔には表情がなく能面のようだ。
─あれは確か、最初に見た女、、、
彼が呆然としながら女を見ていると、彼女は右手に握るマイクを胸元に持ってきて喋りだす。
「ええ皆様、永らくお待たせいたしました。
当バスはいよいよ終着点に到着致します。
お客様の中で、もしまだこの世に未練のある方などおられましたら、降車ボタンを押して下さい。また遺書などがございましたら、私の方で責任を持って懇意にされている方々にお渡ししますのでご安心下さい。」
怖いというよりも悲しいお話しでした(>_<)。
降車ボタン押さなかったんですね。奇しくも似たような境遇の男たちが出会い重ね合う思い。ラストの一文が光っています。最期、ひとりじゃなかったことが唯一の救いであり慰めでしょうか。
皆さん、コメントありがとうございます
─ねこじろう
さみしいね
コメントありがとうございます─ねこじろう