終着点のあるバス
投稿者:ねこじろう (147)
そんなことを思いながらしばらく外を見ていて何気に前を見ると、前の二人席の隙間から何かが見えた。
何だろう?と意識をそこに動かす。
─え!?
彼はギョッとした。
それは人の顔だった。
隙間の向こうの暗闇に女の白い顔が浮かんでおり、不安げな目でじっと彼を見ている。
Aは慌てて目を瞑り、もう一度見直してみる。
だが、すでにそこにはもう何もなかった。
それとなく立ち上がってみる。
前の席には作業着姿の年配の男性が一人、窓際に座り外を見ている。
通路を挟み右側には農作業着姿の老婆が座っている。
さらに前の方を見る。
あちらこちらに座る人たちの、後頭部が見えるだけだ。
皆何をするわけでもなく、ただじっと座っている。
彼は再び腕を組み、窓の外に目をやった。
昼からの疲れからか、少しうとうとしだしていた。
……
それからどれくらい経ったころだろうか。
彼は何かぞくりとするものを感じて目を開けた。
─ああ、寝てしまったようだな。
自嘲気味に頭を掻きながら首を動かしたとき、えっ?と思った。
─隣に誰か座っている!
寝ている間に、乗ってきたんだろうか?
……くたびれたスーツ姿の六十過ぎくらいの男性が、Aから少し離れたところに座っていた。髪はボサボサであり、濁った目で、じっと一点を見つめている。
「あの……あなたも、海の方に向かっているのでしょうか?」
彼は思い切って声をかけた。
というのは、隣の男にはなんとなく同じような匂いを感じたからだ。
男はびっくりしたような様子でAの方を見ると微かに微笑み、口を開いた。
「ええ……別にどこでもいいんですけど。
もう、何もかも終わりにしたくて……」
怖いというよりも悲しいお話しでした(>_<)。
降車ボタン押さなかったんですね。奇しくも似たような境遇の男たちが出会い重ね合う思い。ラストの一文が光っています。最期、ひとりじゃなかったことが唯一の救いであり慰めでしょうか。
皆さん、コメントありがとうございます
─ねこじろう
さみしいね
コメントありがとうございます─ねこじろう