終着点のあるバス
投稿者:ねこじろう (147)
山あいの国道沿いである。
街灯はポツンポツンとしかなく、バス停の時刻表はところどころが赤錆びており文字が殆ど読めない。
停留所のすぐ後ろは崖で、真下には彼方に鬱蒼とした木々が広がっている。
道路を挟んで向かいには切り立つ山肌が迫っている。
Aが停留所後ろのガードレールから下を恐々のぞき込むと、果てしない奈落の闇が広がっていた。
彼は「こりゃあ落ちたら、まず助からないな」
と独り呟いた後、
─これから死のうという人間が、
何怖がってんだろう。
と苦笑した。
すると苦しげなディーゼルエンジンの音が背後から聞こえてきた。
さっきまで歩いてきた方角を振り向くと、闇の中にぼんやりと二つの光が並んで動くのが見える。
どうやら、バスが来たようだ。
……
雨は、いよいよ勢いを増していた。
バスは咳き込むように白い煙を立ち上らせながら、Aの横に巨大な体躯をゆっくりと横たえる
すると後ろのドアが歪んだブザー音と共に、大げさに開いた。
彼は吸い込まれるように階段を上ると、バスの中に入る。
※※※※※※※※※※
車内には、すでに何人かの人の姿があった。
皆なぜか肩を落として暗く沈んでいるようにみえた。
誰一人としてしゃべっている者もいない。
どんよりとした重い空気が車内を漂っていた。
彼は一番後ろのソファの左隅に座った。
するとドアは再び大げさに閉まり、バスは再びゆっくり動きだした。
※※※※※※※※※※
Aは腕を組み左横の窓から外を見ていた。
目前の暗闇を街灯が後ろへ後ろへと通り過ぎていく。
はるか遠くの方にはどす黒い山の端が連なり、人家の灯火がポツンポツンと広がっている。
─あの灯火の一つ一つに人々の喜怒哀楽があるんだろうな
怖いというよりも悲しいお話しでした(>_<)。
降車ボタン押さなかったんですね。奇しくも似たような境遇の男たちが出会い重ね合う思い。ラストの一文が光っています。最期、ひとりじゃなかったことが唯一の救いであり慰めでしょうか。
皆さん、コメントありがとうございます
─ねこじろう
さみしいね
コメントありがとうございます─ねこじろう