ザイコウセイ
投稿者:綿貫 一 (31)
その現象を見た子供たちは、先生から固く口止めされていたんだけどね。
でもこれ以降、子供たちの間では「神隠しに遭った子たちは、学校の裏側に引っ張り込まれて、そこでまだ生きている」なんて噂話が広がったんだ。
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黒板のメッセージ事件は、目撃者が子供たちだけだったけどね。
大人が目撃者になったこともあった。
2010年くらいのことだ。
当時、教育実習で母校であるその小学校に勤務していた青年――仮にアオヤギ先生としようか――が、ある日の放課後、校内の見回りをしていた。
子供の頃に通った、懐かしい校舎。
誰もいない廊下は、夕陽に赤く照らされていた。
既視感。
と、不意に図書室から物音がしたんだ。
「誰かいるのかい?」
アオヤギ先生はドアを開け、教室の中に声をかける。
6年生くらいの女の子がいた。
薄汚れた服を着て、しゃがみこんでいる。
苦しんでいるみたいだ。
「きみ! 大丈夫かい?」
先生は慌ててその子に駆け寄る。
髪を、花飾りの付いたヘアゴムでおさげにしたその子は、手で顔を覆いながら、小さな声で何か呟いている。
「――しい……」
「きみ、きみ! どうした? 苦しいのか?」
「――ぶ、しい……」
「なに? なんだって?」
どうしても声が聞き取れず、慌てていた先生は、無理やり女の子の手を、顔からどけてしまった。
すると、
「まぶしいいいいいぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
女の子は絶叫した。
あまりの大声に、窓ガラスや本棚がカタカタと揺れたくらいだ。
そして、その子の顔を見て、先生はその場から動けなくなってしまった。
彼女の瞳は、まるで光の刺さない暗い海底に潜む深海魚のように、のっぺりと退化してしまっていたから。
面白かった
なんか面白かったです。語り口が良かったです。