ザイコウセイ
投稿者:綿貫 一 (31)
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いなくなったその日、アカネちゃんは、お気に入りの花飾りの付いたヘアゴムで、おさげにしていたんだってさ。
ああ。
キミのそのヘアゴムもかわいいね。
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さて、次は1994年の6月。
その日は一日中、雨が降っていた。
6年3組の午後の授業は、社会科のテストだった。
静まり返った教室。
聞こえるのは、みんなが鉛筆を走らせる音。
窓の外を降る雨の音。
隣のクラスの笑い声。
「――はいっ! そこまで~!」
担任の男の先生が不意に大声を出したので、みんなびっくりする。
この先生は面白がって、わざとそういうことをするんだ。
「じゃあ、後ろから答案を回収して~」
みんなガヤガヤ騒ぎながら、前の席の人に答案用紙を渡していく。
その時だった。
「先生~、ケイイチくんがいません~」
そんな声が上がった。
先生がそちらを見ると、教室のちょうど真ん中辺りの席に座っていたはずの、ケイイチくんの姿がなかった。
そんな馬鹿な。
テストが始まる前は全員が揃っていたし、テスト中だって、先生はずっと教室にいて、みんなの様子を見ていた。
席を立った子はいなかったはずだ。
それに、ドアに近い廊下側の席の子ならまだしも、教室の真ん中の席にいたケイイチくんが、誰にも気づかれないで教室を出て行けたとは思えない。
クラスは騒然となった。
その後、すぐに学校中が探されたけど、彼は見つからなかったよ。
机の上には、問3まで解かれた答案用紙と、消しゴムだけが残されていた。
そうそう。
答案用紙の端っこには、
面白かった
なんか面白かったです。語り口が良かったです。