胸糞悪い話ですみません
投稿者:竹倉 (9)
ひとしきり事が済んだ後、眼の前にいたのはひどく怯えきった、こめの姿であった。
床に張り付き上目遣いからの視線からは恐怖の色が見て取られ、先程までとはうって変わり小さくなっていた。
……分かっているのだ。
こめに邪気がないことは。
本能のままに動いているだけなのだ。それでも、それでも……
私はこの世に生まれてこのかた、これまで経験したことがないほどの罪悪感を感じ、愛猫に本氣で暴力を振るった自分が情けなくなり涙が止まらなくなった。
自分が恐ろしい。
こめ、ごめん……本当にごめん
すくむ頭を撫でている私を見るこめの目からは、私に対して一切の信頼を感じることは出来なかった。
この日を境に我が家の生活は一変した。
面を合わせば始まる喧嘩は一方的なものであった。
日に日に増えるむぎの傷。
見かねて生活部屋を分けることにした。
これまで自由に行き来できた部屋間の移動は制限を余儀なくされた。それは人間も同じだ。
ドアひとつ開けるたびに、常に2匹を気にしなければならないストレス。
むぎを探そうとする、こめの執拗なまでの執念。
一晩中泣き止むことのない、こめの声。
油断すれば始まる喧嘩。
それこそトイレへ行く事にすら神経をすり減らす毎日。
そして何より、私が一存で決めた新入り猫の受け入れでの負い目。
妻から言葉には出ていないものの、無言で責め立てられているのではないかと考えると、ひどく胸が苦しい。
日に日に眠れない日が増えてきていた。
私はこめが大好きだ。
5年という歳月、彼との素晴らしい想い出がたくさんある。
とても可愛らしいこめ。
しかしあの時以降、こめが私に心を開いてくれることはない。
私の方は見ていても、実際に見ているものは私を通り越したなにかだ。
たかが猫だ
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。