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心霊

ひょろにゃさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

声がする
短編 2025/01/25 14:38 2,246view
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僕、漫画家を目指していた時期があったんです。
その時のことを今からお話します。

当時僕は都内に安アパートを借りて、そこで一人暮らしをしていました。
実家も都内なんですが、親が漫画家になるのを猛反対してて、まあよくある話ですよね。
そんなに漫画家になりたいなら出てけ!と言われまして、本当に出て行ったわけです。

風呂無し、トイレ共同のボロいアパートでしたよ。住んでるのも半分浮浪者みたいな人達ばかりで。たまに借金の取り立てみたいなのが来てる部屋もありました。おっかないですよね。
でも僕はそのアパートまあまあ気に入ってたんですよ。駅まで徒歩5分くらいだし、コンビニ近いし、あと原稿を出版社に郵送するので、郵便局が近いのもありがたかったですね。

いつ頃だったかはよく覚えてないんですけど。ずっと空室だった隣に人が越してきたんです。
当時の僕と同い年くらいだから、多分20歳そこそこくらいの人ですかね。さっぱりした短髪の好青年でしたよ。挨拶もハキハキするし、ボロアパートには住まなそうなタイプの人でしたね。
その人のことは仮に田中さんとしておきましょうか。

田中さんが越してきてからなんですけど、変なことが起こるようになりまして。
具体的に言うと、深夜に話し声がするんですよね、ベランダのほうから。
まあボロアパートですから、他の部屋の話し声は筒抜けだし、なんなら向かいのアパートの声まで聞こえてきちゃうんですけど、なんかそういうのとは違うんですよ。
なんと言ったらいいんだろう……ベランダに人が立ってて、その人が窓越しに小声で話しかけてきてるような、なんとなく僕に言ってるのかな?って感じるような、そんな声だったんです。

で、最初はよく聞き取れなかったんですが、日が経つにつれてなんて言ってるか聞こえるようになってきて。
「助けてください」とか「開けてください」とか「話を聞いてください」とか、そんなことを言ってるんですね。女性の声でした。
ああ、もちろんカーテンを開けて確認はしましたよ。昔、不法滞在の外国人が勝手にベランダに入ってきたことがあって、それ以来警戒してましたから。でも誰もいないんですよね。
僕も漫画の原稿を進めなきゃいけないしいちいち気にしてられないので、一ヶ月くらいしたら完全にスルーするようになりましたね。

そしたらある時、急に田中さんが部屋に来たんですよ。初めて会った時は爽やかな青年だったのに、げっそりやつれて髪も髭もボサボサで、なんかもう別人みたいになってて。
何があったのかと聞きましたよ。そしたら、引っ越したいから引っ越しの費用を貸してくれと。必ず返すから今すぐ貸せるだけ貸してほしいと半泣きで言うんですよ。

いやいや、いくらお隣とはいえですよ?最初の挨拶以来ほとんど関わりもないわけですし、第一僕は金が無いからこんなボロアパートに住んでるわけで。とても他人に金を貸す余裕なんてないんですよ。
だからきっぱり断ったんです。そしたら
「じゃあ、引っ越し費用が貯まるまで泊まらせてください」
とか言い出すんですよ。いや、怖いですよね。
申し訳ないけど断りましたよ。そしたらさすがに諦めたみたいで肩を落として帰っていきましたけど、その後ろ姿を見たらちょっと可哀想に思えてきて。それで、泊めるのは難しいけど飲みの相手くらいはするから、って言ったんですよ。
そしたらちょっと嬉しそうな顔してて。そこからちょくちょく話すようになったんですよね。

最初は何も教えてくれませんでしたよ。でもこっちが色々話を振ってたら向こうも信用してくれたのか、ある日急に語り出したんですよ。なんでこのアパートから引っ越したいのか。

田中さんの話によると、前に住んでたアパートで彼女さんが自殺しちゃったらしいんですよね。
で、さすがに人が自殺した部屋に住み続けられないってことでこのボロアパートに越してきたみたいなんですけど、どうやらその彼女さんの霊が田中さんについて来たみたいで。
夜になるとベランダから「開けて」「会いに来たよ」とか言うらしいんですよ。
ベランダから、っていうのを聞いてピンと来ましたね。あ、僕の部屋に来てたやつじゃん、って。あれ、死んだ彼女さんが田中さんの部屋に入りたくて、でも入れないから僕を頼ったんじゃないかって。

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コメント(1)
  • 怖いーーーーーーーーーー

    2025/01/31/15:57

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