【蕎麦屋の幽霊事件】-事件記者 朽屋瑠子-
投稿者:kana (217)
「そうか・・・ひたひたって足音・・・裸足なんですね、この方・・・」
「おっ、おねぇちゃんわかるのかい?」
「くっそ、私には見えんな~悔しいなぁ~・・・宇宙人だったらなぁ・・・」悔しがる三上。
そんな三上の隣の席に、幽霊が座り込む。わりと恰幅のイイオヤジで、店主に向かって無言でニンマリと笑顔を作る。
「ハイ、かけ一丁、まいどあり」
「ねぇ、朽屋、どんなふうに見えるの?悔しいわ~」
「そうですねぇ、いや、見えない方がいいですよ、やっぱり。一見するとね、その辺を歩いてるおっちゃんたちと変わらない感じなんですけどね・・・足元にどんどん血だまりが出来てて、それがこっちにツーーーッって流れて来てますね」
「えっ、ほんと?」一瞬両足を上げて下を見る三上。でもなにも見えない。
「で、幽霊ってさ、どうやって蕎麦食べるの?見たところ蕎麦には異常はなさそうだけど」
「うーん、なんて言うんでしょう・・・フィルムの二重露光みたいな感じで、そこにどんぶりはあるのだけど、幽霊も半透明になったどんぶりを持ってすすっている・・・ちゃんと食べている姿が見えますね。・・・あと、なんだか動画の一部を切り抜いて何度もリピートしているような、そんな不思議な見え方をしますね」
「ふーん、なんか怖いねぇやっぱ」
「その蕎麦、食べてみます?たぶんですけど、どんどん冷えていって、味も香りも抜けていってると思いますよ」
「へぇ・・・遠慮しときます・・・」
「でも、デスク・・・なんかこの人、しくしく泣きながら食べてますね」
「・・・そうなんでさぇ。あっしにはね、めんぼくねぇけど幽霊の言葉は聞こえんので、この人がどんな気持ちで蕎麦を食ってるのかわからんのですが・・・まぁこの世に未練があるから、こうしてまだ出てくるんだろうなぁとは思いますけど」
「あっ!・・・もしかして・・・」朽屋はあることを閃いた。
「どうしたの、クッチャルコ」
「泣きながら食べるで思い出したんですけど、むかし流行ったグルメ漫画にナントカさんって言う頑固おやじが出てくるんですけど、その人に四万十川で採れたアユを食べさせると突然涙を流して喜んで食べるってシーンがあって・・・実はその頑固オヤジも四国の生まれだったってオチなんですけど・・・」
「あぁ~~~それ見たことあるわ、なんちゅ~もんを食わせてくれるんや・・・とかなんとか」
「だから、もしかしたらこの人も・・・」
朽屋と三上、そして店主の三人が、横にあった業務用蕎麦粉の袋を見る。
・・・【信州で採れた蕎麦の実だけを使い、石臼でゆっくり挽いた香り高い蕎麦粉】・・・
「この人、信州に実家があって、それで家族の元に帰りたいんじゃないかしら・・・」
「するってぇと、この方を信州まで連れていけば成仏させられるってわけですかい??」
「オイオイ、信州ったって広いんだよ?ただ蕎麦粉が信州だからってだけじゃ、なんにもわからんだろ?」と三上が否定する。
「だけど・・・」店主が言う。
「初めて会った時にあんだけ賞賛してくれて、これが本物の蕎麦だなんて言ってくれたってことは、それなりに蕎麦に精通した人のような気もします。それにこれだけこだわりがあるんなら、信州で蕎麦になんらかの形で関わっていた事があるんじゃないでしょうか? それこそ蕎麦農家とか、蕎麦屋を自分で出していたとか・・・で、これと同じ蕎麦粉を使っていたとか」
「そうね・・・製粉所か・・・そこなら、蕎麦の実の仕入れ先の農家もわかるし、降ろしてる蕎麦屋さんもわかるんじゃないかしら?」
「なるほどねぇ、おねぇちゃん頭いいね。感心した。どう、今度ウチで働かない?」
ゲフンゲフンと咳払いする三上。
「でもさ、どうやって幽霊を信州まで連れて行くわけ?そんなことできるの?」
kamaです。いつも読んでいただきありがとうございます。
今回、朽屋瑠子シリーズ9作目は、珍しく前作【アジサイ事件】の続きとなりました。
【アジサイ事件】のコメント欄で、以前書いた蕎麦屋の話の解決編も読みたいというリクエストをいただきましたので、急遽、他のネタは後回しにしてこちらを書かせていたただ来ました。
いかがでしょうか。蕎麦屋の話、解決編でした。
また次回もよろしくお願いします。
いつもの恐さと違い、ハッピーエンドで良かった。ダンスを踊る瑠子がバズっている、その後の話も読んでみたい!
クッチャルコシリーズの大ファンです!瑠子ちゃん可愛すぎる。今回の話はほっこりする癒し系の話でしたね。次回作も期待してます。
↑kamaです。コメントありがとうございます。大ファン宣言うれしいですねー。きっと朽屋も大喜びしていることでしょう。
毎回涙誘う大変ええ話を投稿ありがとうございます。特に三上と朽屋のやり取りがこの話を引き立てて良いです。
↑kamaです。コメントありがとうございます。ヴィンセント三上について今後朽屋とどのようにして出会ったかというお話も準備しようと思っている所です。いつか書こうと思いますのでお楽しみに。
朽屋瑠子シリーズはキャラたちが勝手にどんどん話を進めていくので書いてる自分も楽しいです。
ここで書くよりカクヨムとかに投稿したほうがいいんでない?