鬼のいる街
投稿者:kana (210)
私の声と男たちの声がハモってしまいました。
そこには筋骨隆々とした赤鬼が怖い形相で立っており、男たちを片手で軽々と掴んでは、
ぶん投げていたのです。立っているものには激しいビンタを食らわせ、立ち上がってこようとする者にはすかさず後ろに回って羽交い絞め・・・そしてぶん投げ。
最後に倒れている男の元へ行き、側頭部を思い切り踏みつぶそうとしていました。
「ダメっ!!」
私はとっさに叫んでいました。
あの赤鬼のコスプレをした人が、全体重をかけて無防備に倒れている人間の頭を思い切り踏みつぶせば、間違いなく死人が出ると思ったからです。
「鬼さん、ありがとう、もう大丈夫です」
すると鬼は背中越しにこっちをちらりと見て
「子供は早く帰んな」と捨て台詞を吐いて去って行こうとしました。
そんなカッコイイ鬼の後姿を見て、私はなにか見覚えのある姿を思い出していました。
「お・・・お兄ちゃん?・・・もしかして、お兄ちゃんじゃないの?」
赤鬼は一瞬ピクっとして足を止めましたが、
「おまえのお兄ちゃんも心配してるから早く帰んな」
そう言って足早に去って行きました。
「お兄ちゃん!? お兄ちゃんなんでしょ??」
私は走り去る赤鬼に向かって何度も叫んでいました。
やがてパトカーが来て私は警官に保護されました。
逃げた友達が警官を呼んでくれたのです。
私はパトカーの中でしばらく泣いていました。
友達も警察の人も、暴行を受けたからだろうと心配をしてくれましたが、
私は全然違う理由で泣いていたのです。
ひとつは私のテコンドーがストリートではぜんぜん実力不足だったこと。
もうひとつはそんな私に負けていた兄が、実はわざと負けてくれていたんだと、今になって気が付いたこと。そして三つめは、あの赤鬼・・・顔は鬼の面だったけど、あの体格、あの筋肉、そしてあの声・・・
3年前に他界した、私の大好きなお兄ちゃん。その人に間違いありません。
・・・・・・
大学でレスリングをしていた兄は、バスで国内遠征の移動中に事故に遭い、
帰らぬ人となってしまいました。
無言の帰宅をした兄の遺体を、私は泣きながら何度も叩きました。
鍛え上げた肉体も、今や無用の長物ではないかと・・・。
妹の窮地を救う兄貴の兄妹愛に感動しました。最後のオチで兄が亡くなっていたとは何だかせつない気持ちになりますね。
↑kamaです。コメントありがとうございます。
鬼の話なんて・・・と思いながら読んでてグッときた読者さんがいてくれることを願っておりました。読んでいただいてわかるように、こちらの作品は創作なのですが、ボクは創作を書くときでもかならずどこかに本当のことを入れて書くことにしています。ではどこが真実だったのか・・・
それは、妹が最後の方で吐露した「大好きなお兄ちゃん」というところです。
実はだいぶ以前になるのですが、実際の話で、仲の良い兄妹の兄が死に、そのお葬式で妹が「返してよ!大好きなお兄ちゃんだったのに!!」と言って泣きずれているのを見たことがあり、いつかそれを物語の中に入れて、世間のお兄ちゃんどもに、妹の切実な気持ちを感じ取って欲しいと思っていたのです。
なのでボクの作品に出てくる妹たちはだいたいお兄ちゃんっ子になってます。
2023/6/25午後3時半頃。
「妹助け溺れたか、中1男子死亡」のニュース。
仲の良かった兄妹が実際に引き裂かれる事件がおきた。
お悔やみ申し上げます。
とてもよかった
↑kamaです。コメントありがとうございます。
こちら、朽屋瑠子シリーズ第12弾【鬼ぃちゃん事件】にて解決編を公開中です。
ご覧ください。