トラウマの成れの果て

僕が高校生の頃の話です。自転車通学の私はいつものように学校から帰っていました。1月の午後6時など辺りはもう暗く、完全に「夜」といった感じの道を自転車を漕ぎながらゆっくりと帰っていたのです。
　そしていつものように農道を通っているときに、何か、音が聞こえたのです。カチャ、カチャ、というような音がずっと聞こえてくるのです。それは心拍と同じか、たまにそれよりも少し早くなるくらいの感じで、基本的には規則的なリズムで鳴っていました。
　そして、少し道を進んでいくと、その音が大きくなっていき、だんだんシャカシャカといった音も混じってきました。少し不気味だったので、私は音が一番大きくなる地点を立ち漕ぎで急いで通り過ぎ、その日はなんとなく早めに家に着きました。
　
　次の日、部活の片づけに時間がかかり、いつもより少し遅い時間にまた同じ農道を自転車で帰っていました。そして、あの音が聞こえてきたのです。しかし、その時は昨日よりも少しリズムが速かったのです。例えるなら、全力で走った後に、落ち着きかけているときの心拍の速さくらいでした。
「朝は鳴ってなかったしなぁ」
そう不思議に思った私は自転車をゆっくりと止めて、足音一つも決して出さぬよう慎重に、息を潜めてその音の方へ近づくことにしました。

　音は農道の脇の方から聞こえており、どうやら草むらを少し分けて向こうにある桃畑で鳴っているようでした。僕が近づいていくと音が大きくなっていきます。心なしかさらにリズムを速くなっているような気もします。それに合わせて僕の心拍の速くなっていきます。
「カチャカチャカチャカチャ、シャカシャカ、ッフ、フーッ！」　

いや、確かに速くなっている..!!
僕の緊張したこの心拍よりも速い‼やはり人がいるのか？息遣いのような音も聞こえる‼
僕はこの今にも聞こえてしまいそうなこの素早く大きな胸の鼓動の音とは裏腹に、ゆっくりと静かに、草むらを分け、その奥を覗いてみました。

そこには草に囲まれた桃畑で男性が見えました。おそらく誰かと行為をしているのだろうというのは確認できました。僕はもう少し奥を覗こうと決心しました。そして、少し横に移動し角度をつけて見てみました。ですが、今ではその決心をすごく後悔しています。

その男性は自転車と行為をしていたのです。

僕は何も言うこともできず、息をすることも少しの間できませんでした。ゆっくりと息を吐き、爆発しそうな鼓動の心臓を抑えながら踵を返す直前、その男性は、達したのです。
　僕は急ぎながらもゆっくりとその場から離れる最中、目の端で確認しました。男性は自身の体液を自転車のサドルに擦り付けていたのです。

その翌日、僕は回り道をして学校に登校し、教室に先生が来ていつもの話を聞いていました。「またつまらない自分語りか」と思ってたところ、1つの言葉が引っ掛かりました。

「自転車」

　そう。今日はいつもの自分語りではなく、高校での自転車盗難事件についてでした。それは最近立て続けに女子生徒の自転車が盗まれたというのです。しかし、翌日には学校付近の道に何1つ損傷なく乗り捨てられてあるとのことでした。
　私はとても昨日の帰り道のことなど学校の関係者、友人にさえも言うことはできませんでした。たとえ言ったとしても信じてもらえないし、信じてもらえても女子生徒を傷つけてしまうと思ったからです。それにキモイ妄想変態野郎だと思われる可能性だってありますし。
　僕はこの件を誰にも言うことなく、この胸の内に秘めてきましたが、ここに投稿することで気持ちの整理をつかせたいと思います。
それに、最近は妙に自転車に乗っている女子高生が多いし、そんな光景を見ると当時のことを思い出してしまいます。夜中に学校の門の前を通る時は、当時の記憶が鮮明に蘇ってきて
困るのです。ホントに嫌な体験をしたものです。