これは私が学生の頃、ポスティングのバイトをしていた時に体験した話です。
そのバイトは主にエリアマネージャーの車で担当地区へ運ばれ、チラシの束と地図を渡されて、後は指示された区画のポストにチラシを投函していくだけの簡単な仕事でした。
その日、私は初めて行く地区に降ろされました。
区画整理のされていない入り組んだ道を、いつも通り一軒一軒ポストへ投函して進み、ある古い集合住宅まで来ました。
私は昼間なのに薄暗いエントランスに入って、無人の管理人室を通り過ぎ、奥にある集合ポストへと向かいました。
壁に埋め込まれた集合ポストを見た時の、最初に抱いた感想は「ここの設計者は郵便局員が嫌いなのかな?」でした。
部屋番号の並びがバラバラで、規則性が全くなかったからです。配達員の苦労が忍ばれます、しかし私には関係ありません。
順番に一枚ずつチラシを入れていくうち、あることに気がつきました。
507号室のポストだけが無かったんです。
他の階の7号室のポストはすべて揃っていましたが、「507」と書かれたポストだけ、いくら探しても見つかりませんでした。
しばらく探した後、何か事情があるのだろうと思い、私は全てのポストにチラシを入れ終わると体の向きを変えました。
するとエントランスの壁、本来ポストなど無い場所に一つだけ斜めに設置されたポストを見つけました。
そのプレートには「507」と書かれていました。
何あれ?と思い一歩近づいた瞬間、そのポストが急に動き出して虫のような動きで壁を這いずり、こちらへ向かって来たんです。
私は状況が飲み込めず、その場で固まってしまいました。
ポストは私の横にある集合ポストの列まで移動すると、そこに収まって動かなくなりました。
私はしばらく呆然としていましたが、全身に怖気が走ると同時に体が動くようになり、直ぐにエントランスから飛び出しました。
しばらく走って、自動販売機の前でへたり込み、息を切らしながらさっきのことを思い返しました。
壁に埋め込まれたポストが這いずり回るなんてありえない、さっき私が見たものは幻覚だったんじゃ…?
しかし、冷静に状況を振り返り、あることを理解してしまった瞬間。
そのあまりの悍ましさと恐怖から、私は足が竦んでその場から動けなくなってしまいました。
私は震える手でポケットから携帯電話を取り出して、エリアマネージャーに急な体調不良で早退したいと伝えました。
迎えに来た車の中で、マネージャーが「この地区ではよく体調不良になる子がいる」と話していた事を覚えています。
私はその日でポスティングのバイトを辞めました。
今でも集合ポストは苦手です。

























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