「た……頼む。
家に帰してくれ。
お願いだ」
狭い部屋の中にサトルのか細い声が空しく響くなか、ヘルメットからはまたあの忌まわしい行進曲が流れだしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その頃サトルのいる個室の隣の個室では、小人のように小さい別のピエロが、ぐったりとなった女の両手を掴み、懸命に部屋から引きずり出そうとしていた。
シルクの赤いドレスを着た茶髪の女は年齢が判別できないくらいにやせ細っており、両腕は完全に潤いをなくし、ミイラのように骨と皮だけになっている。
「まったく世話が焼けるよ。
たった2日目の途中でいきなり自分で舌を噛んで死ぬんだもんな」
小人ピエロは一頻りぼやくと、コンクリートの通路を後ろ向きに女性を引きずりながら、焼却炉に続く出口のある奥に向かっていた。
【了】
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嫌な事ばかり続くと、やっぱりへこむ。
怖い
死を体験できる映画館みたい。
使い方によっては自殺防止の教材になりそう