地獄の水先案内ピエロ
投稿者:ねこじろう (149)
中は薄暗くて人が通れるくらいのコンクリートの通路が左右に走っており、それに沿ってネットカフェのような個室がずらりと並んでいる。
天井には安っぽいむき出しの蛍光灯が、ジージー鳴っている。
―なんなんだ、ここは風俗か?
ということはピエロは客引き?
サトルが訝しげに辺りをキョロキョロ見ていると、ピエロは個室の一つのドアを開け「さあ、どうぞ」と手招きした。
中は畳一畳くらいの狭い個室だ。
低い天井には裸電球が一つだけ頼りなく灯っており、真ん中に黒いリクライニングシートがある。
その横にカラオケボックスにあるような箱型の機械があり、横にヘルメットみたいなものがぶら下がっている。
「さあさあ、こちらにどうぞ」
ピエロに薦められるまま、サトルがそこに座ると
「え~、では足を肩幅に開いて、手は手すりの上に乗せてください」
と言われたので、彼はそのとおりにした。
すると突然手すりと足元から鉄の輪っかが飛び出してきて、あっという間に手足を拘束される。
「おい、何するんだよ!」
サトルが動かない手足をバタつかせながら叫ぶ。
するとピエロは「本当にお客さんは素直でおりこうさんだ」と小さく手を叩きながら嬉しそうに微笑んでいる。
「おい、お前、いったいどうするつもりだ!」
サトルの訴えをよそにピエロは口笛を吹きながら横手の機械にぶら下がるヘルメットみたいなものを手に取ると、彼の頭に被せてあごひもを止めた。
ヘルメットには黒いゴーグルみたいなのが付いており、スキーのハイジャンプに使うものに似ている。
「さあ、いよいよショーの始まりです!」
ピエロは大げさに一言言うと、さっさと部屋から出て行った。
「まったく何なんだよ、これは……」
ぶつくさとサトルが言っていると、いきなりヘルメットから派手な行進曲がジャンジャン聞こえてくる。
しばらくすると、視界正面の真ん中に白文字の字幕が浮かび上がってきた。
『西暦2023年 1月5日
深夜2時21分
OL 紀子 24歳の場合』
―何だこれは?映画か?
彼が訝っていると、行進曲に被せてピエロの明るい声が聞こえてくる。
嫌な事ばかり続くと、やっぱりへこむ。
怖い
死を体験できる映画館みたい。
使い方によっては自殺防止の教材になりそう