おまもり
投稿者:リュウゼツラン (24)
カナコを救い出せるのは僕しかいない。
まるで物語の主人公になったようなつもりで、僕はどうすればヒロインであるカナコを幸せにしてあげられるのかを考えた。
でも、まだ子供の僕が同じく子供であるカナコを幸せにするだなんて、ちょっと想像がつかないし、そもそも彼女が望んでいることだって、本当のところは分からないんだから。
いや、ひとつだけある。
父親の死だ。
娘にあんなことをするクズは死んで当然だし、カナコだってそう思ってるに違いない。
……いや、母親の存在を忘れてた。
父親が死んでも母親まで死んでしまうようなことになれば、幸せどころか彼女は不幸でしかないだろう。
ベッドでゴロゴロしながら、ない知恵を振り絞っていたら、気づけば朝になっていた。
僕の部屋は二階で、もう雪は溶け始めたかなと何となく外を見下ろすと、うちの玄関前でうろうろしているカナコを見つける。
慌てて階段を駆け下り、勢いよく玄関ドアを開けると驚いた顔のカナコが立っていた。
「ビックリしたー。でもよかった」
そう言いながらやや大きめなスーパーのビニール袋から、綺麗に畳んだ僕のダッフルコートを取り出す。
「これ、ありがとう。あったかかった」
「あー、うん」
「あと、これも、ありがとう」
ポケットから出したのは僕があげたお守りだった。
「……別に。そんなの気休めじゃん」
「ううん。本当に、このお守りのおかげで、救われたんだよ」
僕は何もしていないし、何もできなかったし、これから先彼女をどう守ってあげたらいいかも分からない。
気持ちの問題であったとしても、彼女の言うようにこのお守りの方が僕よりよっぽど彼女を救っているんだと思うと苛立ちすら感じる。
「不思議なお守りだね、これ。……本当に貰っていいの?」
手のひらに乗っていたお守りから目を逸そうとした僕は、彼女の指先が赤いことに気付く。
そして、カナコの手が全体的に薄っすらと赤く染まっていることにも。
よく見ると、彼女の顔や首にも赤い点がついている。カラーペンでつけたような跡じゃなくて、それはまるで、赤い液体の飛沫を浴びたかのような――。
どうしたの? だなんて僕は訊かなかった。
その赤い液体が何なのか、僕には想像がついていたし、その液体の持ち主にも僕は心当たりがあったから。
「あげるよ。これからもカナコを守ってくれるはずだから」
「うん。ありがとう」
何か言いたげだったけど、彼女は何も言わず手を振りながら帰っていく。
後ろ姿を見送りながら、僕はなんとなく、もうカナコに会えない気がして、少しだけ泣いた。
胸が痛い。
最後に予想を裏切られた…
非常に面白かったです
貴方は、彼女を守ったよ。
歳の割に渋い割り切りしてんな、少年。
いい漢になるぞ。